東芝の“絶対に破られない”「量子暗号通信」開発責任者を直撃 市場の4分の1を取ってリーディングカンパニーへ医療、金融、政府機関の分野で実用化(3/4 ページ)

» 2020年12月09日 19時00分 公開
[中西享ITmedia]

すでに社会実装した中国

――中国はこの技術では進んでいるのか。

村井マネージャー: 中国はこの量子暗号技術の研究開発に非常に熱心だ。すでに、北京―上海―武漢間の2000キロに光ファイバー網を張り巡らし社会実装して金融系の用途に使っているようだ。距離に限界があるため、ファイバー網には中継点をいくつも持っている。

佐藤上席研究員: 中国は衛星を打ち上げて量子暗号通信の実験をしている。衛星との間で通信ができれば、地上にファイバーを敷かなくてもよい。しかし、衛星は雲があると通信が不安定になるため、ファイバーの方が安定している。

phot 市場動向
phot 中国の動向
phot サービス網を利用する主要銀行

――欧米はどうか。

佐藤上席研究員: 米国は表に出るのは2003年ごろと早かったものの、最近は聞かなくなった。欧州は欧州全体のプロジェクトとして構築しようとしている。

――10月に事業化を目指すと発表したが、報道への反応はどうか。

村井マネージャー: 大きな反響があり、複数社から問い合わせが来ている。すぐに導入するというよりも「まずは話を聞きたい」という声が多い。自社の事業のどこに使えるかを考えたうえで、マッチすればトライアルとなる。まだ入り口の段階だ。広く使えるようになるには、これから5年、10年掛かる。10年後には欠かせない技術になっていると信じる。

――まずはどの分野で実用化されるとみているか。

村井マネージャー: 金融、医療、政府の安全保障に関する分野などが想定されるが、どの分野がどれだけ大きくなるか、走りながら考える。東北大学とはゲノム医療で実証実験を行っている。コストは開示してないものの、決して安くはない。最初の段階では高いコストをかけても守りたい分野が優先されるだろう。普及してくればコストも下がってくるので、多くの分野にも実装されるようになる。

佐藤上席研究員: がんゲノム治療など個人情報が盗まれてはならない分野で使われるようになるのではないか。

――富士通は年収3500万円で(関連記事)、NECも新卒社員に1000万円出して人材を採用する(関連記事)ことを打ち出している。この技術を開発するために、高い給与で人材をスカウトするなどはしているか。

村井マネージャー: そういう話は聞いていない。初期の段階からケンブリッジでの世界最先端の技術開発が目立ったので、その評判を聞いて優秀な人材が集まっているのではないかと思う。

phot 東芝の量子暗号通信技術

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