Go Toトラベルの陰で切り捨てられた豪雨被災地 旅館業者が悲鳴をあげる「なりわい再建補助金」の欠陥ここがヘンだよ「Go Toトラベル」(1/3 ページ)

» 2020年12月16日 19時20分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

 「Go Toトラベル」キャンペーンが混乱している。12月14日に、同月28日から2021年1月11日までの間、全国で利用を一時停止することが決まった。菅義偉首相は12月11日まで「一時停止は考えていない」としていたものの、わずか3日後に方針を転換した形だ。一方で、「Go Toトラベル」を来年6月末まで延長するために、1兆円の追加予算を計上することも明らかになった。

 観光庁によると、20年7月22日から11月15日までにキャンペーンを利用した宿泊は約5260万人泊に達し、少なくとも3080億円の割引支援が実施されたという。とはいえ、中小の事業者には十分な恩恵が行き届いていない課題があるほか、新型コロナウイルス感染拡大の原因になった可能性も指摘されており、一時停止により結果的に事業者が苦しむことになる。

phot Go Toトラベル事業の概要

 その一方で、これまで「Go Toトラベル」の恩恵を全く受けられていない観光関係者もいる。それは20年7月の豪雨災害で被災したホテルや旅館の事業者だ。

 国は豪雨災害の被災事業者に「なりわい再建補助金」で支援をしている。しかし、この補助金の仕組みに疑問の声が上がっているのだ。事業者が保険を自費でかけていた場合、保険金が支払われるとその分が減額される。ホテルや旅館は再建に時間がかかり、その間の収入も断たれることから、再建を諦める事業者も出てきているのだ。

 それでも国は「なりわい再建補助金」の仕組みを改める考えはない。「Go Toトラベル」の陰で置き去りにされた被災者を取材した。

phot 天ヶ瀬温泉で休業したままの旅館や商店(2020年10月、筆者撮影)

60年間営業した旅館をやむをえず廃業

 「豪雨で川が増水していたので、河原に面した旅館の地下部分から荷物を全て1階に持ち込みました。普段の水面から道路までは十分な高さがあるので1階まで水は来ないだろうと思っていたら、1階の天井まで浸(つ)かりました。あれから3カ月が経(た)ちましたが、復旧のめどは全く立ちません」

 こう話すのは、20年7月豪雨の被災地の1つ、大分県日田市の天ヶ瀬温泉の旅館経営者だ。天ヶ瀬温泉は玖珠川の河原にある露天の温泉が名物で、両岸には旅館や土産物店が立ち並ぶ。しかし、7月7日の豪雨では、川から道路へと水があふれ、建物の一階部分がほぼ水没。テレビのニュースで旅館街が濁流に飲み込まれる映像を見た人も多いのではないだろうか。

phot 天ヶ瀬温泉の旅館街

 筆者は10月中旬に天ヶ瀬温泉を訪れた。両岸の旅館や土産物店は、1階部分を片付けてはいるものの、壁の補修などが済んでいない建物も多く、営業は再開できていない。天ヶ瀬温泉旅館組合によると、組合に加盟する14軒のうち、7軒が閉めたままだという。

phot 川沿いの旅館や商店は復旧できていない

 川の両岸を結んでいた鉄橋は流された。旅館街のシンボルだった赤いつり橋は壊れ、わずかに剥き出しのワイヤーでつながっているだけ。川沿いは土台から工事が行われることが決まっていて、少なくとも1年以上はかかる。護岸工事が終わってからでなければ、旅館を建て直すことはできない。

phot ワイヤーだけでつながっている吊り橋

 冒頭の経営者の旅館は、60年にわたってこの地で営業していた。今年に入って新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で4月から休業。6月の終わり頃に落ち着いてきたと思い、消毒などの設備を整え、7月から営業を再開した。しかし、その矢先の7月7日に豪雨災害に襲われた。新型コロナのダメージと豪雨被害が重なり、復旧のめどが立たないことから、廃業を決心したという。

 「護岸工事が1年以上かかって、それから再建となると、もうもちません。新型コロナで閉めたときに借金をしているのに、さらに借金して再建するのは無理です。後継者の問題もありますし、もう旅館はやめることにしました」

phot 鉄橋は濁流に流されて消失している
phot 鉄橋があった場所。あとかたもなく流された
       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.