Go Toトラベルの陰で切り捨てられた豪雨被災地 旅館業者が悲鳴をあげる「なりわい再建補助金」の欠陥ここがヘンだよ「Go Toトラベル」(2/3 ページ)

» 2020年12月16日 19時20分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

災害支援の補助金なのに、保険金が出たら減額

 天ヶ瀬温泉では復旧のめどが立たず、ホテルや旅館を再建するかどうか悩んでいる経営者は多いという。その原因の1つが、7月豪雨で被災した事業者を支援する制度の「なりわい再建補助金」が、ホテルや旅館の事業者にとって使いやすいものになっていないからだ。

 「なりわい再建補助金」は、被災した中小企業や事業協同組合が所有する工場、店舗、生産機械などの復旧が対象。県が「復興事業計画」を策定し、事業者の復旧費用の一部を国が支援する。国が2分の1、県が4分の1を補助する仕組みだ。

phot なりわい再建補助金の説明(首相官邸のWebサイトより)

 募集は随時期間を区切って実施されているが、11月末時点では交付が決定された件数は多くはない。7月豪雨で最も被害が大きかった熊本県では、11月13日に14事業者に対して9000万円を交付。11月末までに福岡県の10事業者に約6600万円、大分県の6事業者に約2600万円が交付されている。

 しかし、ホテルや旅館の被災者の申請は進んでいない。それは補助金申請の条件に、ホテルや旅館の経営者が躊躇(ちゅうちょ)せざるを得ない条件があるからだった。

 1つは、自費でかけていた保険で、保険金が支払われていた場合、その分が補助金から減額される点だ。ホテルや旅館は再建に時間がかかり、その間は営業もできない。保険金は生活のためにも必要なのに、その分が補助金から削られてしまうのだ。

 さらに、ホテルや旅館の経営では必須である備品については対象にならない。前出の経営者は、天ヶ瀬温泉の事業者の状況についてこう話す。

 「補助金の制度をつくってくれたのはいいけれども、保険金が支払われたら補助金が減額されると聞いて、驚きました。みんな現金収入がなくなって、保険金で食いつなごう、これまでの借金を返そうと思っていました。それなのに保険金を充てることができなければ、営業を続けたくても続けることができません」

 逆に言えば、保険をかけていなければ、補助金は全額もらえる。「保険をかけていない人の方が得をする」と、保険をかけてきた事業者にしてみれば納得がいかないだろう。この点については他の被災地からも疑問の声が上がっている。大分県九重町の宝泉寺温泉も7月豪雨で複数の旅館が被災した。建物の一部が被災しながらも、復旧工事と並行して営業を続けている「宝泉寺観光ホテル湯本屋」の経営者も首を傾げる。

phot 宝泉寺観光ホテル湯本屋
phot 湯本屋、改装工事中の様子

 「建物の一部が被災しましたが、休業するとモチベーションが下がるので営業を続けています。なりわい再建補助金を利用しようと思っていますが、保険をかけていない事業者の方が得をするのは、ちょっとおかしいのではないでしょうか。補助金の制度が見切り発車でスタートしている気がします」

phot 宝泉寺温泉の被災した場所
phot 宝泉寺温泉の旅館街の道路は陥没していた

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