「なりわい再建補助金」は、なぜこのような制度設計になったのだろうか。管轄している中小企業庁は、補助金から保険金分を減額する理由を、次のように話す。
「なりわい再建補助金は、以前の台風被害の被災者に適用した、中小企業等グループ補助金と自治体連携型補助金をベースに設計しました。グループ補助金でも保険金分を減額する仕組みになっていました。
保険金分や備品を除外する理由は、私有財産に国の補助金を投じることに大きなハードルがあるからです。保険をかけている部分にまで補助金で面倒をみるのは、どうなのかなという判断です」
また、11月になっても補助金の交付件数が多いとはいえない点については、次のように分析している。
「12月までの相談件数は多いと感じています。被害の軽い人はすぐに申請ができますが、被害が重い場合は、事業を再開するのかどうかの経営判断もあって、申請を悩んでいるのではないでしょうか」
しかし、ホテルや旅館の経営者が憂慮している保険金分の減額や、備品を対象外にしている点については、改めることは検討していないという。
豪雨災害で被災した天ヶ瀬温泉や宝泉寺温泉では、営業しているホテルや旅館に「Go Toトラベル」を利用した客も確かに来る。しかし、予約は休前日に集中しており、予約がない平日は閉めているところも少なくない。通常、宿泊料金は休前日が高いが、「Go Toトラベル」による割引率が曜日に関係なく一律で、かつ割引率が高いことから、中規模、小規模の施設にはそれほど喜べない状況なのだ。
そして、新型コロナウイルスの感染は12月に入ってこれまで以上に拡大している。予約が入っていた年末年始に「Go Toトラベル」の利用が一時停止されることで、営業を続けている事業者もさらに厳しくなる。ましてや被災した事業者には、「Go Toトラベル」は何の足しにもならず、営業継続のための支援は乏しかった。天ヶ瀬温泉の経営者は静かにつぶやいた。
「被災した事業者に支援をして、コロナの支援もしたうえで、コロナが落ち着いてから割引のような支援をした方が良かったのではないでしょうか。もう私たちは、にっちもさっちもいきません。本当に残念です」
「Go Toトラベル」は首相が「一時停止は考えていない」と言いながら、直後に年末年始の一時停止を表明したことで、旅行業の関係者にとっても、年末年始に利用しようと予約をしていた人にとっても混乱が生じている。
その一方で、来年6月まで「Go Toトラベル」を延長し、1兆円の追加予算が投じられる。総予算は2兆円規模になる。しかし、事業者に満遍なく支援が行きわたる仕組みにはなっていない。「Go To」にこだわる新型コロナの一連の経済対策は、長期的な展望や戦略が描かれているとは、いえないのではないだろうか。
その裏では、今回の豪雨被災地の事業者のように、完全に置き去りにされて廃業を余儀なくされる人々もいる。新型コロナ対策も、災害復旧も、現場の声に耳を傾けた支援が必要ではないだろうか。
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで警察不祥事、労働問題、教育、政治、経済、パラリンピックなど幅広いテーマで執筆。「スポーツ報知大相撲ジャーナル」で相撲記事も担当。Webサイトはhttp://tanakakeitaro.link/。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)
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