「5月の倒産確率は38.5%」。星野リゾートの星野佳路代表は、5月より予約や財務の状況など、幾つかの変数をもとに計算した「倒産確率」を社員向けに発表している。コロナ禍という危機の中では、経営の内容を正直に伝えることが大切で、社員一人一人が経営の動きを知ることが「会社を強くする」という星野代表の考えから取った施策だという。
同社のある社員は「倒産確率は経営状況が一目で分かり、厳しい反面、下げるために自分に何ができるかを考える機会になる。その意味で倒産確率を知ることは、心の支えになっている」と話す。倒産確率発表の経緯、社員のモチベーションやチームビルディングへどう働いたのか、星野リゾートの星野佳路代表に聞いた。
星野佳路(ほしの・よしはる)1960年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院で修士課程修了。1914年に創業した星野温泉旅館の4代目で、91年星野温泉旅館(現星野リゾート)社長就任。長野県出身(同社提供)――10月からGoToトラベルキャンペーンに東京も加わりました。足元で影響はでていますか?
星野リゾートでは7月からGoToトラベルへ参画し、秋以降の滞在に利用が増えるよう計画的に販売をしてきた。それが功を奏して今秋の実績は、沖縄、北海道、東京を除くと8〜9割ほどで相当持ち直している。ただ、これが4月〜6月の自粛期間の需要が後ろ倒しになっているのか、GoTo終了後の来年の需要が前倒しになっているのかが問題だ。そのバランスで現在の捉え方も大きく変わる。
いずれにしても、GoToトラベルは、いつか終わる。旅行価格がGoToで35%の割引となり需要が拡大するよりも、100%に戻った時のダメージの方が深刻だと警戒している。65%の価格に慣れているため、体感的には100÷65=1.54と、5割の値上げに感じるはずだ。既にキャンペーン終了後も視野にいれて手を考え始めている。
――GoToキャンペーン終了後に向けての原動力は?
今回のコロナ禍で、星野リゾートとしては、会社の一体感が増したと感じる。緊急事態宣言時の4月5月には、クローズをしていた施設も多く、9割のスタッフに帰休をお願いし、その後も稼働に応じて帰休となっているスタッフもいる。100%の帰休手当を支給したが、手取り額は制度の都合上平時よりは少なくなるので、スタッフに副業を認めた。
すると生活の為というのに優先して「ちょうどいい機会だから、コロナ後に役立つように」と、地元の魅力作りを一緒にしてきた工芸作家の方や野菜を卸してくれている農家さんなどで副業をする人が多かった。私自身、こういったスタッフの行動に、元気をもらいあらためて頼もしく感じた。コロナ禍での経験や一体感は、新たな魅力へとつながる。キャンペーン終了後、あるいはポストコロナを生き抜く大きな原動力になると思っている。
――倒産リスクをスタッフに発表していますが、その意図は?
4月・5月は施設が稼働できない中、マネジメント層から自信をもって「星野リゾートは大丈夫」とはいえない状況だった。そこでウィズコロナの状況は少なくとも18カ月は続くこと、予約のキャンセルは4月の緊急事態宣言発令時に底を打ったこと、国内需要は大きく生き延びる余地はあることなどを伝え、現状のリスクを分かりやすく共有する指標として、独自に「倒産確率」を算出した。
スタッフには雇用を守ることを約束しつつ、倒産確率を下げて生き延びるために、帰休やコスト削減などそれぞれに我慢してほしい点をお願いした。同時に「安全・安心が何よりも需要喚起に大事」ということで、早々に三密回避策を打ち出し、実行を進めてもらった。スタッフが同じ目標を共有し自律的に動いたおかげで6月に40.1%となった倒産確率は、8月には18.3%までに回復している。
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