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星野リゾート星野佳路代表が語る「コロナでリストラしてはいけない」納得理由――“近場旅行”のニーズを掘り起こし「生き残る」「近づけない、集めない」時代を生き抜く、企業の知恵(1/4 ページ)

» 2020年09月11日 05時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

 コロナ禍の長期化でインバウンド(訪日外国人)が激減し、日本人も移動が制限されたことでホテルや旅館に泊まる宿泊者が大きく落ち込んでいる。観光庁によると7月は延べ宿泊者が2258万人で前年同月比56.4%減となり、6月の68.9%減よりは回復しているが、依然として新型コロナの影響で大幅減が止まらない。

 旅行ビジネスの厳しい情勢が続く中で、現状の生き残り策とコロナ禍後の日本の観光戦略はどうあるべきなのか――。星野リゾートの星野佳路代表に聞いた。

phot 星野佳路(ほしの・よしはる) 1960年生まれ。慶應義塾大学を卒業後、米コーネル大学ホテル経営大学院で修士課程修了。1914年に創業した星野温泉旅館の4代目で、91年星野温泉旅館(現星野リゾート)社長就任。長野県出身(以下、写真・画像は同社提供)

「Go To東京外し」の整合性はなかった

――旅行業界の厳しい現状をどう認識しているか。

 3月の時点でコロナ禍との戦いは、18カ月に及ぶ長期戦になると予測して取り組んできている。感染者が増減するたびに旅行需要に大きく影響するが、7〜8月の宿泊者数は4〜5月に比べるとはるかに戻ってきている。当社もその傾向にある。地域によって差はあるものの、需要が戻ってきていない地域に力を集中したい。楽観はできないが、先は見えてきた感じはする。

phot 「星のや京都」の7月稼働率
phot 「界 遠州」の7月稼働率

――政府が実施した「Go Toキャンペーン」についてどのように考えているか。 

 3月に予算が決まり、その時点では新型コロナウイルスがどんなものかまだ良く分からなかったので、正確な制度設計をするのは難しかったと考えている。新型コロナがどういうものか分かってきた今、制度の不備や効果について批判するよりも、制度自体を微調整する方向に持っていくべきだ。

 旅行需要を盛り上げようとしたものの、盛り上げると「3密」を回避しにくい状況になってしまう。だから、盛り上げるというより「下支えする」発想が大事だ。8月の観光地へのお客さまはだいぶ戻ってきたので、9〜10月の平日、冬場の閑散期を下支えするように制度を設計し直してほしい。

 予約したときには感染者が少なくても、宿泊するときには増えたりすることもある。だが感染者数に左右されては個々の企業は戦略をなかなか確定できない。国の緊急事態宣言が出ない限りにおいて、このキャンペーンを感染者の数に左右されない制度設計に微調整してほしい。その意味で、東京の感染者が200人を超えたからといって、「Go Toキャンペーン」から東京を外す整合性はなかったと考えている。

――星野リゾートは20、21年に相次いで新しいホテルをオープンする予定だ。今年は新卒者600人を採用したが、今後も拡大路線を続けていくのか。

 星野リゾートはホテルを所有しない運営会社だ。過去にはバブル崩壊、不良債権処理、リーマンショックといった危機が起きるたびに、運営の仕事が増えてきた経緯がある。今回は(国内投資会社の)リサ・パートナーズ(東京都港区)と、国内のホテル・旅館を投資対象とした「ホテル旅館ファンド(仮)」を立ち上げる予定だ。運営の仕事が増えるきっかけになる可能性を感じている。

 集客力、効率的な運営ノウハウが求められるときほど、ホテル再生のパートナーとして当社を頼ってもらえる傾向があり、ニーズが合致すれば運営したいと考えている。

 今年、新規採用したメンバーは現地でトレーニングを積んでいる。21年も予定通りの採用を進めて、運営の仕事が増えたときのために備えたい。

――ホテル旅館ファンド立ち上げの狙いは。

 機関投資家からの資金は集まってきていて、ファンドの規模は100億から200億円の間になる予定だ。支援というのは、資金面のサポートだけでなくホテルや旅館の運営もさせてもらうことになる。ホテルや旅館経営に対してアドバイスだけをしても良くはならない。

 総支配人やスタッフ全員が星野リゾートの「フラットな組織づくり」を理解しないと運営はできないので、スタッフに自由な発想で行動してもらい、文化を変えていくしかない。運営する件数は決まっていないが、3〜5年で10件は十分可能な数字だ。

phot 2020年末までの国内宿泊旅行の意向(星野リゾートの調査)
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