――星野代表はホテル事業の再生にも手腕を発揮してきた。他社にない経営の強みはやはり先述した「フラットな組織文化」になるのか。
フラットな組織文化こそが競争力の源泉だと考えている。この文化がなければ、経営者として考えてきたことを実際に機能させることはできない。
例えば顧客満足度調査をした内容を現地スタッフが分析する場合――。実際にデータを活用するスタッフがチーム内でフラットな人間関係を維持し、言いたいことを言い合って初めて正しい議論ができる。当社が柔軟な意思決定ができるのは、自由でフラットな関係が維持されているからだ。フラットな組織文化が星野リゾートの最大の競争力だと思う。
――とはいってもチェーン展開している企業では仕事の標準化、マニュアル化が「正義」とされ、本社が決めた基準に沿って現場では例外行動をなるべく許さないようにマネジメントするのが正解とされている。多くの日本のチェーンストア企業でもその方法論が浸透しているが、星野リゾートではどうしているのか。
標準化すべき所と、すべきでない所に明確な基準がある。旅の新しい魅力作りは現地で考えた方がよく、これは標準化すべきでない。観光というのは地域独自の魅力こそが素材になっていて、この魅力をうまく引き出さなければ、お客さまは旅行する意味がなくなる。
一方、魅力作りを考える上では、数字による裏付けが必要だ。だからデータの調査方法は標準化している。これについては顧客満足度調査の結果が毎日上がってきて、スタッフはシステム上でタイムリーに確認することができる。これを使って現地でカスタマイズした魅力のある商品やサービスを作ることが重要だ。
また、厨房の衛生管理システムは特に重要なので、抜き打ち検査も実施するなど、完全に全国一律で標準化している。
――日本の多くの企業が縦割り組織のため、現地スタッフに任せるという発想がないように見受けられる。
誤解のないように申し添えると、「任せる」という言葉の中にはすでにフラットさがなく、中央集権的な発想に感じられる。フラットなパワーを企業が信じられるかどうかが重要だ。
私が米コーネル大学のホテル経営大学院に留学していた1984年に、ケン・ブランチャードという組織論の大家が、「エンパワーメント」という組織理論を展開していて、「組織文化こそが企業の競争力につながる」とビジネススクールで教えていた。これを信じられるかどうかが勝負のしどころだと思うが、日本企業の多くはまだそのことを信じ切れていないように思われる。
――ビュッフェ形式の食事提供を5月に停止した後、7月に再開した。
これこそまさにフラットな組織作りが機能した好事例だ。予約センターのスタッフの意見と、顧客満足度を示すデータをもとに決定した。
前提として4月に感染防止のためトップダウンでビュッフェを止める指示を出し、5月から6月まで提供を停止した経緯がある。しかし、予約を受けている沖縄の予約センターのスタッフから、「ビュッフェが中止になりがっかりした」というお客さまの声が多いと聞いて戦略を見直した。
安心できるビュッフェが求められていると考え、衛生管理を徹底した「新ノーマルビュッフェ」を開発することにした。料理ごとにアクリル製のカバーを設置するなど5つの感染対策を取り、2週間テストを実施した。お客さまの反応も良かったので、ビュッフェを再開することにした。ただ、手袋を付けることは不評なので、9月以降に微調整する予定だ。
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