トップインタビュー

えちごトキめき鉄道の鳥塚亮社長と沢渡あまねが語る「地方企業の問題地図」 いすみ鉄道の成功から見る「地方を救うブランド化」地方企業の問題地図 【後編】(3/4 ページ)

» 2020年12月19日 14時32分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

いすみ鉄道の成功は「ブランド化」

沢渡: 公募で選ばれた社長として、2009年にいすみ鉄道に着任しましたが、社員の皆さんには最初にどのようなあいさつをしたのですか。

鳥塚: 最初の日の朝礼で「この会社をブランド化したい」と申し上げました。みんなポカーンとしていましたよ。「ブランド化って何ですか」と聞かれたので、「いやいや、みんなから良い会社で働いていますねといわれる会社にすることですよ。そういう会社を作るのが私の使命なので、皆さんも協力してください」と答えました。

沢渡: 分かりやすいですね。

鳥塚: ではそのために何をしていくのかが、第三セクターが普通の民間企業と違うところです。基本的には行政から補助金をもらって運営しています。本来は利益を上げて、利潤を回さなければならないのでしょうけど、そんなことをやっているうちに会社は息絶えてしまいます。だから存続させるには、地域の皆さんに認めてもらって、「補助金を出さないとしようがないよね」と言ってもらえる会社にするのが一番の近道だと考えました。

 さまざまな取り組みをしたことで、いすみ鉄道は注目してもらえました。沿線の商工会が日曜日の午前8時から正午まで朝市を開催することで、お店は1週間分の売り上げを4時間で上げるようになりました。沿線の人たちが自分は乗らないけれども、いすみ鉄道があってよかったと思う方向に進められたのは良かったと思います。

 私が就任したときのいすみ市議会は、議員の6割が赤字を理由に「いすみ鉄道はいらない」という姿勢でした。それが最終的には満場一致で「いすみ鉄道は赤字だけど存続していい」となり、存続の道筋がつきました。これで自分の仕事は終わったと思い、退任させていただきました。縁のある土地なので、関係が切れるわけではないですが。

沢渡: 確かに地元の支えがなければ、鉄道は残ることができないですよね。

鳥塚: 運賃収入はたかがしれていますからね。運賃収入でローカル線を維持していくのは無理です。それに世の中が車社会に変わって、建設された当初の役割も終えています。ではインフラとしての使命は何かと言えば、地域を利するためにきちんと機能することだと考えました。都会から人が来て、お土産が売れて、ホテルや食堂の売り上げが上がるなど、地域全体の売り上げアップにつながれば、ローカル線が必要だと思ってくれるはずですから。そういう発想です。

沢渡: 赤字でしかなかったインフラに、他の地域からの目線で意味づけをされて、デザイン化をされたということですね。私もダム巡りが好きで、最近はダム際で仕事をする「ダム際ワーキング」を発信していたら、静岡県の袋井土木事務所の方に共感していただいて、一緒に太田川ダムでのダム際ワーキングの企画をしました。同ダムでは、現在、ダム際ワーキングに参加する企業を公式に募集しています。

 ダムは地域の人からすれば面白いものでも何でもありません。山奥にあるよく分からない施設にすぎない。それが今、例えば群馬県の山奥のダムでも、点検放流のイベントに3000人もの観光客が訪れています。その結果、ダムに対する地域の人たちの理解と共感が生まれつつある。「そこにある、あたりまえ」のものでも、多様な視点の掛け合わせによって、人の導線を生み、お金を生むものだと分かれば、地域の人の意識も変わると感じました。

鳥塚: 実際に財布の中の1万円札が少しでも増えれば、地域の人が納得する部分も出てきますよね。

沢渡: いすみ鉄道のように第三セクターで社長を公募するのは、他の地域でも行われていると思いますが、うまくいくためには会社側にどんなことが必要でしょうか。

鳥塚: 安易に公募社長を選ばないことです。そして、選んだからにはきちんとその人に従うこと。自分たちにできないことを、その社長は人生を懸けてやるわけですから、きちんと話を聞いて協力するべきですね。

 公募社長だからといって、1人の人間がマルチで動けるわけではありません。足りないスキルは地元の人たちや社内の人が補っていく努力をしなければ、良くはならないでしょう。公募社長を選んだ側も、責任をとる必要があるということですね。

phot いすみ鉄道では旧国鉄車両のキハ28をレストラン列車「レストラン・キハ」にして、伊勢海老特急などたくさんのグルメ列車を企画した(いすみ鉄道のWebサイトより)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.