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コラム
» 2020年12月28日 07時00分 公開

「脱ハンコ」推進と電子署名の活用促進の動き

菅政権が成立した直後から、行政手続における押印を原則廃止する見直しが、河野行政改革担当大臣を中心に迅速に進められた。これまでの「脱ハンコ」をめぐる政府の対応の経緯についてまとめたい。

[ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

本記事は、ニッセイ基礎研究所「『脱ハンコ』推進と電子署名の活用促進の動き」(2020年12月22日掲載、総合政策研究部 研究員 坂田紘野)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


 菅政権が成立した直後から、行政手続における押印を原則廃止する見直しが、河野行政改革担当大臣を中心に迅速に進められた。その結果、民間から行政への行政手続の中で、押印が求められている1万4992種類のうち、99%以上にあたる1万4909種類において押印の廃止の決定または廃止の方向で準備されることが発表された。

 法改正が必要なものについて、一括法による早期の法改正を目指した準備が進められている。また電子署名の普及推進については、この機を逃さないよう、規制改革推進会議のデジタルガバメントワーキング・グループを中心に検討がなされている。

 本稿では、これまでの「脱ハンコ」をめぐる政府の対応の経緯についてまとめたい。

1――コロナを受けての「脱ハンコ」の緊急対応

 菅政権は、行政、民間における不要な押印の見直しを推し進めている。これまで、多くの場面において押印が求められてきた理由としては、大きく分けて(1)法令に押印を要するとの定めがあるため、(2)法令に定めはないが、慣行上押印が求められるため、の22つが挙げられる。しかし、新型コロナウイルスの流行を受け、状況が変わった。現在、行政手続、民間事業者間の手続の双方において、「脱ハンコ」に向けた緊急対応及び将来に向けた検討が実施されている。[図表1]

photo [図表1]企業が押印を行うケースの分類とコロナ禍の対応

 緊急対応として、行政手続においては、規制改革推進会議の答申に従い、(1)法令に根拠がない場合、原則として押印を求めないこと、(2)法令の定めがあっても、可能な限り押印がなくても申請等を受け付けること、とされた。なお、答申は押印が求められている趣旨として、(1)本人確認(文書作成者の真正性担保)、(2)文書作成の真意の確認、(3)文書内容の真正性担保(証拠としての担保価値)、の3点を挙げている。

 また、民間事業者間の手続においては、「押印についてのQ&A」(※1)を公表し、民事訴訟法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであるため、契約に当たって押印をしなくても、契約の効力に影響は生じない(※2)ことを明示した。これにより、商慣行として定着している押印の廃止や、他の方法による代替を促す。代替方法としては、(1)取引先とのメールのメールアドレス・本文及び日時等、送受信記録の保存、(2)電子署名や電子認証サービスの活用、等を例示している。

(※1)内閣府・法務省・経済産業省「押印についてのQ&A」(令和2年6月19日)

(※2)民事訴訟法第228条第4項に関する情報発信

2―――電子署名の2つの方式

 不要な押印の廃止のための取組みに合わせて、本人認証や文書の真正性担保のための有効な手段として、電子署名の利用拡大に向けた取組みが進められている。

 電子署名の方式としては、電子的な印鑑証明に相当する電子証明書(※3)を用いる手法(「当事者型」)と、主にクラウド技術を活用する電子認証サービス(「立会人型」)による手法の2つが広く知られている。[図表2]

photo [図表2]「従来型」「立会人型」電子署名イメージ図

 電子署名法の制定当時に想定されていたのは、「当事者型」電子署名であった。これは、契約の当事者双方がそれぞれ電子文書に直接電子署名を行うものであり、利用の際には、電子署名を利用する個人が、認証事業者(※4)に電子証明書の発行の申請を行う必要がある。「当事者型」のメリットは、電子証明書を発行した契約の当事者双方が自ら電子署名を行うことから、電子文書の真正性を証明する法的根拠が電子署名法上で明示されている点にある。また、電子署名法では、本人によって電子署名が行われた場合、その文書の内容は真正に成立したと推定できるとする(※5)。そのため、「当事者型」電子署名に関する規定は、実は民事訴訟法など押印に関する規定と遜色ない。しかし、契約の当事者双方が電子証明書を発行する必要があることは、電子署名を行うにあたっての時間や手間がかかるというデメリットにもなっている。

 一方、「立会人型」において実際に電子署名を行うのは、契約の当事者本人ではなく、電子署名サービスを展開する民間事業者のような第三者となる。クラウド(※6)上に保管された契約書等の内容が真正であることを、契約締結を行う双方の当事者が確認し、契約書等に利用者の指示を受けた第三者である事業者が意思を介在させることなく電子署名を行うことで、真正性を担保する仕組みが一般的だ。「立会人型」は電子証明書の発行が不要なため、迅速な対応が可能であるというメリットを有している。しかし、電子署名の真正性を証明する認証業務を行うのが、第三者(事業者)であり、契約の当事者本人ではないことから、その効力を認める法的根拠は曖昧であった。電子署名法の成立時はクラウド技術が世界的に普及する以前であったため、「立会人型」電子署名のようなケースについては、法による想定がなされていなかった。契約方式自由の原則から、双方の当事者の合意の上では「立会人型」電子署名による契約であっても民法上契約は成立する。しかし、後に訴訟に発展してしまった場合の扱いについては、いまだ判例が示されておらず、法的リスクが存在していることが、普及の障害となっていた。

(※3)書面取引における印鑑証明書に相当する、信頼できる第三者(認証局)が本人であることを電子的に証明するもの

(※4)電子署名の利用者本人が電子証明を行ったことを証明する事業者

(※5)電子署名法第3条

(※6)さまざまなITリソースを、インターネットを使って必要な時に必要なだけ利用できるサービスのこと。「クラウド」の名前は「ネット上のどこかにあるが、場所を意識する必要がない」という意味で雲の絵が使われたことに由来する。

3――電子署名の普及に向けた取組み

 内閣府、法務省、経済産業省は7月17日、9月4日に相次いで電子署名法に関する法解釈を明らかにするQ&Aを連名で公表することで、「立会人型」電子署名の普及を後押しした。

 7月に公表されたQ&Aは、必ずしも利用者が物理的に自ら措置を行わずとも、利用者の意思に基づいていることが技術的・機能的に明らかであれば利用者が電子署名を行ったと評価できるとした。すなわち、契約当事者が直接電子署名を行った場合でなくとも、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、当事者の意思に基づいて電子署名が行われたことが明らかであれば、電子署名法上の電子署名としての要件を満たすということが示された。

 9月のQ&Aでは、7月のQ&A時点では明らかにされていなかった、「立会人型」電子署名が電子署名としての要件を充足しているのかについての回答がなされた。「立会人型」電子署名のうち、「固有性の要件」(電子署名が本人、すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたものである、という要件)を満たしている場合、電子署名法上の電子署名として認められるということが、明示された。

 これらのQ&Aによって、これまで立場が曖昧であった「立会人型」電子署名にいわば法的なお墨付きが与えられたような形になっている。普及の妨げとされていた法的リスクの解消により、今後、一層の「立会人型」電子署名の普及が期待される。

4――デジタル化の推進の成長への寄与に期待

 菅政権はデジタル化の推進をポストコロナの成長の軸に据える。河野大臣は大多数の行政手続における押印が廃止に向かうことを踏まえ、「手続をオンラインに移していくということに取り組んでいかなければならない」と発言している(※7)。われわれ国民の生活の利便性の向上を目的と考えると、「脱ハンコ」やデジタル化が手段として進められていくことは望ましいといえるだろう。今後の動きに期待したい。

(※7)内閣府「河野内閣府特命担当大臣記者会見要旨(令和2年11月13日)」



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