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» 2021年01月19日 21時00分 公開

コロナ禍で参加者を3倍まで増やしたhontoのオンライン読書会「ペアドク」に潜入「近づけない、集めない」時代を生き抜く、企業の知恵(1/3 ページ)

2019年にスタートした「ペアドク」は、当初は都内のカフェなどで開催していたものの、コロナ禍以前から検討していたオンラインでの開催に踏み切った。すると20年3月の時点では100人程度だったFacebookコミュニティーの参加者を、11月までに300人程度にまで増やせたという。ペアドクが取り上げた ピョートル氏『パラダイムシフト』の回に潜入した。

[田中圭太郎,ITmedia]

「近づけない、集めない」 時代を生き抜く、企業の知恵:

 「人が集まる」「人に直接会う」ことで稼いできた企業が、新型コロナを契機に自社戦略の見直しを迫られている。どのようにして「脱・3密」や「非接触」を実現し、ビジネスチャンスを生み出そうとしているのか。

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 コロナ禍ではオンラインによるセミナーが活況を呈している。中でも書籍の読者を掘り起こす点で注目されているのが、オンライン読書会の「ペアドク」だ。大日本印刷が丸善ジュンク堂書店、文教堂と共同で運営する、リアル書店と電子書籍・通販のハイブリット型総合書店「honto」が主催している。

 2019年にスタートした「ペアドク」は、当初は都内のカフェなどで開催していたものの、コロナ禍以前から検討していたオンラインでの開催に踏み切った。すると20年3月の時点では100人程度だったFacebookコミュニティーの参加者を、11月までに300人程度にまで増やせたという。ライフデザインをテーマにすることが多く、コロナ禍で新しい生き方を模索する幅広い世代に支持されている。

phot ハイブリット型総合書店「honto」が主催するオンライン読書会の「ペアドク」への参加者(以下、クレジットなき写真は大日本印刷提供)

 「働き方・暮らし方のこれから」を考えた20年12月の読書会では、グーグル(Google)の元人材開発担当でプロノイア・グループの代表取締役ピョートル・フェリクス・グジバチ氏の『パラダイムシフト』(かんき出版)を題材に選定。参加費を1000円(税込)に設定し、丸善、ジュンク堂書店、文教堂など全国133店のhontoポイントサービス実施店で対象書籍を購入した人には、ペアドクの半額割引チケットを提供。書籍の購入につなげる仕掛けを施していた。

 ピョートル氏がゲスト参加し、新しい世界をつくるために必要な「本質的な問い」について約30人がZoomを使って議論した。オンライン読書会の一連の流れを取材して、コロナ禍、そして出版不況の中で書籍の需要を堀り起こそうとする試みを追った。

phot 2019年にスタートした「ペアドク」は当初、都内のカフェなどで開催していた

30分読書とグループ対話で書籍の魅力をシェア

 「ペアドク」の進め方には特徴がある。著者が登場する前に、まず「30分読書」で題材となった本を読み、自分にとって大事だと思ったところを探す。もちろん事前に全て読んでいてもいいし、読んでいなくても参加できる。本を読んで、大事だと思ったこと、質問したいことをチャットでアウトプットして、いくつかのグループに分かれて参加者同士で対話する。

 12月の読書でhontoがテーマに選んだのが、ピョートル氏が上梓した『パラダイムシフト』。パラダイムシフトとは、当たり前のことと考えられていた認識や思想、社会的価値観が劇的に変化することを指す。ピョートル氏はMistletoe創業者の孫泰蔵氏やNTTドコモ・ベンチャーズ代表取締役社長の稲川尚之など他分野のトップランナー21人にインタビューし、働き方や生き方の当たり前を問い直している。重厚な内容を参加者全員で読み解き、「働き方・くらし方のこれから」を考えるのが今回の目的だ。

 グループ対話で参加者は、ピョートル氏と21人の議論のなかから印象に残った部分を挙げ、それぞれの考えを披露した。この対話を通して他者がどのように受け取ったのか、自分の考えとの違いを知ることができる。そのうえでピョートル氏の講演に臨んだ。

phot ペアドクで取り上げたピョートル氏の『パラダイムシフト  新しい世界をつくる本質的な問いを議論しよう』(かんき出版)

「現実とは何かをうたがってほしい」

 ピョートル氏はモルガン・スタンレーを経て、グーグルで日本を含むアジアパシフィックにおける人材育成と組織改革、リーダーシップ開発などを担当。15年に独立した。現在は自身が設立したプロノイア・グループの代表取締役など、複数の会社で取締役を務める連続起業家だ。ベストセラーになった『ニューエリート グーグル流・新しい価値を生み出し世界を変える人たち』(大和書房)など、多くの著書を日本で出版している。講演では、自身の活動の源は「生まれつきの好奇心」だと説明した。

 ピョートル氏は1975年、共産主義時代のポーランドの小さな村に生まれた。大自然の中で育ち、8歳の頃から牛飼いの手伝いをしていたことが原体験にある。牛がどうすれば自分のことを味方だと思ってくれるのかなど、自然と触れるなかで本質的なことを学びながら、いずれこの村を出て世界を旅したいと思っていたという。

 ところが、ピョートル氏が14歳だった1989年、ポーランドの社会のパラダイムは一変する。共産主義が崩壊し、民主化が実現したものの、人々の暮らしは豊かにならなかった。西側から入ってきた企業は地元企業を再構築し、従業員は減らされ、つぶされた会社もあった。ピョートル氏の兄は職を失い、アルコール依存症になったという。結局兄は、酒に酔って自動車事故に遭い、命を落とした。ピョートル氏は参加者にこう投げかけた。

 「われわれがコンセンサスをとれるのは残念ながら一つ。死にます、ということです。それ以外の皆さんが見ているもの、感じている空気、聞こえている声は、それぞれで受け取り方がたぶん違うと思います。個人個人が見ている世界は全然違うということです。

 グラスに入ったこれを水だと信じていますか。アルコールかもしれないし、毒が入っているかもしれない。このグラスに入っていると皆さんは水だと認識します。しかし、実際は毒が入っていて、飲んですぐに死ななくても、30分後には死ぬかもしれない。現実とは何かを、皆さんにうたがっていただきたいのです」

phot ピョートル・フェリクス・グジバチ プロノイア・グループ代表取締役。ポーランド生まれ。ドイツ、オランダ、アメリカで暮らした後、2000年に来日。2002年よりベルリッツにてグローバルビジネスソリューション部門アジアパシフィック責任者を経て、2006年よりモルガン・スタンレーにてラーニング&ディベロップメントヴァイスプレジデント、2011年よりGoogle Japanにてアジアパシフィックでのピープルデベロップメント。さらに2014年からは、グローバルでのラーニング・ストラテジーに携わり、人材育成と組織開発、リーダーシップ開発などの分野で活躍。現在は国内外さまざまな企業の戦略、イノベーション、管理職育成、組織開発のコンサルティングを行うプロノイア・グループの経営と他1社の相談役を務める(プロノイア・グループ提供)
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