そうなれば、若い世代は従わなければいけない。機嫌を損ねてヘソを曲げられたら物事がスムーズに進まないし、にらまれたりでもすれば、もはやその世界では生きていけない。かと言って、老害だと引導を渡しても、同じような調整老人はなかなか見つからない。だから今回、森氏のように引退しようとすると全力で引きとめるのだ。
本人が歳をとったので辞めようとしても、どこからともなく「辞めないでコール」が起きて、調整老人としての役割を死ぬまで求められる。そして、気が付けば、「なんであんなおじいちゃんをみんな怖がってんの?」なんて言ったら消されるようなアンタッチャブルな存在になっていくのだ。
この調整老人の大量生産システムこそが、「日大のドン」とか「芸能界のドン」なんて感じで、日本のさまざまな業界で、「ドン」が乱立している本質的な理由なのだ。
という話をすると、「年齢差別だ!」とキレるシニアも多いかもしれない。調整老人のように年齢でひとくくりにして批判するのは乱暴だ、老人でも立派なリーダーはいるし若くてもダメなリーダーはいる、みたいな感じで、調整老人を「老害」扱いしていることに不快な思いをされる方もいらっしゃるかもしれない。
だが、歴史を振り返れば、アンタッチャブルな存在になってしまった調整老人が組織にさまざまな害をもたらしてきたのは、差別でも誹謗中傷でもなく、厳然たる事実だ。特に近代化してからの日本は、組織内で猛威を振るう調整老人のパワーを抑える戦いの歴史と言ってもいい。
「モウロクしたヨボヨボ元帥を退役させる停年制 但し称号と名誉は保留する案」(読売新聞 1925年4月13日)
当時、世界の軍隊で武功のあった者は、軍事上の最高顧問として終身現役とすることが一般的だったが、「老害」として暴走するケースが相次いだ。そこでこれを「悪しき慣習」として見直す国が相次ぎ、日本にも導入すべきと議論になったのだ。
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