東北新幹線運休で本領を発揮した快速列車たち 鉄道の“責任”と“誇り”が見える杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/4 ページ)

» 2021年02月19日 09時20分 公開
[杉山淳一ITmedia]

鉄道は「責任」「誇り」「奉仕」の精神で走っている

 受験生への配慮という点では、今年1月上旬の豪雪と鉄道事業者の闘いも記憶に新しい。特に、えちごトキめき鉄道では社長のブログで除雪対応の様子が毎日報告されていた。雪が降れば運休となり、復旧のために除雪を急ぐ必要がある。その努力は1月16日の昼のNHKニュースで報われた。沿線で行われた共通テストの受験生が「電車が動いて試験に間に合って良かった」と笑顔を見せてくれた。試験の結果は分からないけれども、豪雪地域の鉄道員たちが、何を思って雪と戦っていたか。その真意が伝わって胸が熱くなった。

 「国鉄は鉄道マンの“責任”が動かしていたんです」。漫画家の池田邦彦さんの言葉だ。池田さんは、日本の鉄道創世記を鉄道技術者の視点で描いた『エンジニール〜鉄道に挑んだ男たち〜』や、国鉄時代の鉄道員の仕事や乗客とのふれあいを描いた『カレチ』などの作品を描いた。『エンジニール〜鉄道に挑んだ男たち〜』の単行本発売イベントをお手伝いしたとき、池田さんとお話しする機会があって「責任が動かす」という話になった。

池田邦彦著『エンジニール〜鉄道に挑んだ男たち〜』

 「おカネを稼ぐ」も大事。「お客さまに喜ばれる」も大事。しかし、池田氏が描いた国鉄時代は、国内の膨大な輸送需要のほとんどを国鉄が背負っていた。目の前のお客さまを列車に乗せる。駅に積み上げられた貨物を貨車に積んで機関車につなぐ。目の前に仕事が山積みで、それを規則通りに黙々と処理する日々だった。

 栓を開ければ水が出ることと同じくらいに、鉄道は動いていることが当たり前で、それは鉄道職員も、乗客も、荷主も同じ思いだった。だから運休なんてとんでもない話だ。どんな雨風でも列車は走った。そこには「運ぶ責任」が最上位にあった。

 しかし、この責任はしばしば暴走した。強風にもかかわらず列車を走らせて橋から列車が転落したり、風に煽られて脱線したり。ささいな故障や傷みを見過ごして大事故に至った事例も多い。「走らせなくてはいけない」という強い責任感が裏目に出た。そこで、鉄道は安全最優先に舵を切った。それは間違っていない。

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