しかし、安全を重視するあまり、「羹に懲りて膾を吹く(あつものにこりてなますをふく)」という場面もあるような気がしてならない。悪天候になりそうだからと早々に運休を決めてしまったばかりに、天気予報が外れても正常運行に復旧できないという事例をいくつか思い出せる。結果的に人命は奪われなかったけれど、列車が停まってしまったばかりに、個々の乗客や荷主にとって大切なものが失われてしまったかもしれない。
東日本大震災の時は、厳冬の東北地域に向けて、横浜・磯子から磐越西線、羽越本線経由で石油輸送列車が走った。その姿を見て「鉄道の頼もしさ」を感じた人も多かったと思う。あれから10年。JR東日本はまた「責任感」を見せてくれた。
私が池田氏の「責任が走らせる」という言葉に共感した理由は、自分自身の営業マン時代の働き方に通じるからだ。仕事に「責任」を持つこと。その上でお客さまに「奉仕」すること。その結果に「誇り」を持つこと。給料や出世のためではなかった。それは責任と奉仕と誇りを持って働いていれば、後から必ずついてくる。
逆に言うと、そこに報いがなければ働く意味がない。その環境作りが経営者の役目だろうと思う。JR東日本は現場の責任感と奉仕の心とプライドを持った人が働いている。その現場の判断を上層部がきちんと受け止めて報いてくれるだろう。鉄道に限らず、多くの企業がそうあってほしい。
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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