楽天で相次ぐ“ポイント改悪”……それでも顧客は流出しない?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2021年03月12日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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それでも顧客は流出しない?

 筆者は、このようなポイント還元のカットが今後幾分か重なったとしても、急激な顧客離れは起きにくいと考えている。なぜなら、顧客のスイッチングコストが大きいからだ。

 そもそもスイッチングコストとは、ある商品・サービスから他のブランドに乗り換える際の金銭的・心理的障壁のことを指す。ひとたびユーザーをサービスに引き込んでしまえば、値上げが耐えがたいものでない限り、ユーザーはそのサービスを利用し続ける性質がある。これはネットフリックスの値上げ事例からも読み取れる。

 まず、ネットフリックスは2月5日に、日本ユーザー向けとして二度目の値上げに踏み切り、ベーシックプランとスタンダードプランをそれぞれ約12%値上げした。しかし、過去の値上げ事例を確認すると、ネットフリックスのいずれの値上げも結果として成功し続けている。

 その効果が最も顕著だったのは、19年1月の米国ユーザー向けの値上げ事例だろう。ネットフリックスはこの値上げによって。一時は前年同期比マイナス13万人ものユーザー流出を招いてしまった。しかし、値上げによる単価向上で北米エリアにおける売り上げは前期比10%増の約23億ドルとなり、過去3期と比較して最大の伸び率を記録したのである。

 流出したユーザーの「13万人」という数字をみると確かに大きく見えるものの、これを解約「率」で表せばわずか0.21%に過ぎない。価格を18%値上げしたのであれば、解約率が18%を超えない限りはトータルでプラスとなるのだ。そしてその解約率が圧倒的に少なかったことが同社の成長をもたらしたのである。

 さらに、ユーザー解約の動きはすぐに落ちつき、次の四半期では北米におけるネットフリックスユーザーは再び当時の過去最高を更新して、前期比52万人増の6062万人になったのだ。

 これを楽天に当てはめると、楽天のポイント還元率がカットされるということは、顧客が取引する金額に対するリターンが減少するため、実質的なサービスの値上げと取ることができる。ただし、それでもNetflixなどの事例を参考にすれば、楽天の顧客基盤を毀損(きそん)するほどのものではないと考えられる。

 楽天におけるポイント還元を巡る改定は、たびたび“改悪”と受け取られることもあるが、それでもスーパーセールやお買い物マラソンといった各種施策を組み合わせれば、楽天ゴールドカード/楽天カードのポイント還元率は依然として業界でもトップクラスだ。ユーザーにとっては代替先を見つけるのは難しいのかもしれない。したがって、今回の改定はユーザー離れとのバランスでは経営上プラスの効果として現れ、その分をモバイルなどの投資事業にあてていくものであるだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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