楽天で相次ぐ“ポイント改悪”……それでも顧客は流出しない?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2021年03月12日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 楽天ゴールドカードのポイント還元率が減少するまで、あと3週間を切った。4月以降は、楽天市場でのポイント還元率が無料で作れる楽天カードと同じ2%になってしまう。

 このようなポイント還元施策の“改悪”と呼ばれている動きは、楽天市場のダイヤモンド会員である筆者にとっても大きな痛手だ。しかしながら、よくよく思い返せば楽天のポイント割り当てが渋くなっているのは、なにもここ最近だけの話ではない。

 楽天市場におけるSPU(スーパーポイントプログラム)では年を追う毎にポイントの還元率が減っていったり、最低利用金額が付されたり、ポイント付与条件が追加されていたりという印象を受ける。

 その背景には、特に「楽天モバイルや物流への投資」という大きなビジネス機会に、できるだけ資金を投入したい狙いがあると考えられる。とりわけ楽天モバイルを巡っては、大手3キャリアがこぞって新料金プランのリリースに踏み切っており、楽天モバイルの競争優位性が相対的に低下してしまったことも大きな要因だろう。

20年度決算説明会で、ボトムラインではなく挑戦や進化を重視すると語った楽天グループの三木谷浩史社長

ポイントにメスを入れる理由は会計基準に?

 実際のところ、楽天の今期業績は良いとはいえない。決算説明の場では、モバイル・物流等の投資先行事業を切り離せば黒字である旨を強調しているものの、2020年全体の営業利益は前年同期比マイナス1987億円で1027億円の大幅な赤字となっている。

 この1987億円のうち、1512億円分がモバイル事業への投資によるものであることから、楽天はポイント還元をカットすることでモバイルの投資による傷口を少しでも塞ごうとしているのではないだろうか。

楽天の営業利益の中身。1512億円にのぼるモバイル事業の赤字が大きく影響した(楽天決算資料より)

 楽天がポイントにメスを入れる背景には、楽天の会計基準によるものもある。なぜなら、楽天が採用する国際会計基準(IFRS)ではポイント還元のカットは売上高を直接押し上げる効果があるからだ。

 日本基準の会計方式では、今の段階では原則としてポイントは負債として処理される。そして、その期中で利用が見込まれているポイント分を「引当金」といった名目で計上するのが通常だ。したがって日本基準では、現金値引きよりもポイントで還元した方が、売上高を押上げやすい。

 しかしIFRSでは、ポイントを付与すると売上高を押し下げてしまう。IFRSにおけるポイントは「顧客から将来の商品の対価を預かっている」かのように取り扱っており、ポイント付与分は売上収益(売上高)から直接控除されることとなるからだ。

 つまり、IFRSを採用する企業がポイントを還元すると、その分だけ売上高を押し下げることになるのだ。したがって、ポイント還元のカットは、その後の取引金額が変わらなければ企業の売上高・営業利益を押し上げる効果が期待できる。マイナスになったとしてもその傷口は幾分か浅くなる効果はありそうだ。

 しかし、ポイント還元のカットで浮くコスト以上に顧客流出が発生してしまえば、元も子もない。それでは今回の施策で顧客流出は発生するのだろうか。

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