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ヤフーとLINEが経営統合、川邊・出澤共同代表に聞く――ZホールディングスにあってGAFAにない優位性とは?オンラインとオフラインの垣根をなくす(1/2 ページ)

» 2021年03月25日 08時00分 公開
[中西享, 今野大一ITmedia]

 ヤフーを傘下に置くZホールディングスとLINEが経営統合して、新生Zホールディングスが3月1日に誕生した。これにより国内最大規模のインターネットサービス企業が誕生したことになる。

ヤフーを傘下に置くZホールディングスとLINEが経営統合して、新生Zホールディングスが誕生(左が川邊健太郎氏、右が出澤剛氏、以下撮影:KAZAN YAMAMOTO)

 GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)という巨人が日本でも大きな市場シェアを獲得していて、これに打ち勝つのは容易ではない。どのような施策を打つことで、ユーザーや企業にとって使いやすい、ライバル企業に勝るネットサービス企業になろうとしているのか。Zホールディングスの共同最高経営責任者(Co-CEO)に就任した川邊健太郎氏と出澤剛氏にインタビューした。なおこのインタビューは3月5日に実施した。

川邊健太郎(かわべ・けんたろう) Zホールディングス代表取締役社長Co-CEO(共同最高経営責任者)。1996年に青山学院大学在学中に有限会社電脳隊を設立。2000年にヤフー入社、07年メディア事業部シニアプロデューサー、12年副社長COO、18年社長CEO、21年3月から経営統合したZホールディングスの共同CEO。東京都出身。46歳
出澤剛(いでざわ・たけし) Zホールディングス代表取締役Co-CEO(共同最高経営責任者)。1996年に朝日生命保険に入社、2002年にオン・ザ・エッジ入社、07年ライブドア社長、14年にLINE取締役、15年に社長CEO。長野県出身。47歳

アマゾンや楽天に対抗

――新生Zホールディングスの売り上げ拡大のポイントとして、eコマースと広告マーケティングを挙げられました。eコマースで優位性があるアマゾンや楽天などに対抗するためには、具体策として何が必要だと考えていますか。

川邊氏: 日本のGDP(国内総生産)は世界第3位で、一定の国内需要がある一方、(買い物の)eコマース比率は10%強しかありません。1位の中国はこれよりもっと多く、米国でも日本の倍の比率があります。こうした状況を鑑みて当社は、ユーザーにとってより便利なサービスを提供することで、eコマースを伸ばしたいと考えています。

 そのためには基本的な性能である「品ぞろえ」「探しやすさ」「物流面の届けやすさ」、さらには「お得感」を高めていきたい。そうすることによって、eコマース比率は上がってくると考えています。まずは自分たちが努力して、業界全体が切磋琢磨することが必要です。

――日本のeコマース比率が低いのはなぜでしょうか。

川邊氏: それはコンビニを含めリアル店舗が便利にできているためです。だからわれわれはそれを超える便利さを生み出していく必要があります。

――ヤフーは2019年にZOZOを買収するなどしてきました。今後、売り上げ拡大のためにM&A(企業の合併・買収)という手段を使う考えはありますか。

川邊氏: Zホールディングスと一緒にビジネスをやりたい企業があれば、M&Aも駆使してやっていきたい。

――物流網はどのように充実させるのですか。

川邊氏: ヤマトホールディングスとアライアンスを結び、一緒に物流網を強化していきます。もう一つの課題である「顧客へのラストワンマイル」については、LINEグループに加わった出前館があります。ここでのギグワーカーは昼と夜に料理を運んでいますが、それ以外の時間は空いていて「アイドルタイム」になっています。

 ギグワーカーからも「もっと運ばせてほしい」というニーズがあるので、ネットワークを強固に組んで、さらにラストワンマイルを便利にすることにチャレンジしていきたいと考えています。

――LINEは傘下に入れた出前館に20年春、追加出資をしましたが、その狙いは何でしょうか。

出澤氏: 日本の出前文化には長い歴史があります。ただ、オンラインを使った出前の比率はまだまだ低いのが現状です。コロナ禍でユーザーだけでなく、店側にも出前をやりたい企業が増えてきています。世界の出前サービスも日本に進出してきていて、出前サービスはより便利になってきています。

 出前館には「もっと一緒にやりたい」ということで出資を増やしましたが、料理の出前だけでなく空いた時間、つまり「アイドルタイム」に他の物品も届けられます。ここはリアルとネットが入りまじる部分で、大きな成長分野だと思います。

広告主のデジタルシフトを促す

――広告マーケティングでは、広告主であるクライアントから広告を出した成果があったのかどうか、コストパフォーマンスを厳しく見られています。クライアントの売り上げ増加につながり、喜ばれるためにはどんな広告が求められるのでしょうか。

川邊氏: 広告主が広告の効果について厳しい視点を持っているのは極めて重要です。それがネット広告業界全体を利することになるからです。

 いままではテレビの広告が圧倒的に強く、販促のチラシなどもありましたが、アナログ的な広告は効果があるかどうかも含めて良く分かりませんでした。このため、効果の分かるデジタルの方に広告費が流れてきて、そこのマーケットが大きくなってきました。ですから、きちんとしたソリューションを提供すれば、おのずからデジタル広告が拡大していく自信があります。

 これを、広告の認知、検索、購入、再購入という一気通貫のデータで見ることができるのが重要で、われわれが持っている広告のラインアップを提供すれば、効果が分かるようになります。新規顧客獲得から優良顧客化までの「フルファネル」の広告商品です。実際には今ある商品をつなげていくことになりますが、フルファネル広告をしっかり投入して、広告主のデジタルシフトを促していきたいと考えています。

出澤氏: いままではオンラインの広告ではデータを採れていた一方、オフラインに移った瞬間に(データが)途切れてしまっていました。つまりオンラインで広告を見た人が実際にお店に来て商品を買っても、データ自体はつながっていませんでした。このオンラインとオフラインが交じり合ったところがポイントになるのではないでしょうか。

 ヤフーにある情報やニュースの検索で商品を知り、「PayPay(ペイペイ)」というリアルの決済があり、LINEオフィシャルアカウントがありますから、継続購入のコミュニケーションを作っていく3つのツールがそろっていることになります。その意味でわれわれは、フルファネルといわれる全部の種類の広告とマーケティングツールを持っています。

 オンラインとオフラインをまたぐデータを把握できる可能性があるので、このサービスは顧客に心地よく、広告主にとっても効果の高いものになるのではないでしょうか。

川邊氏: こうしたサービスを、ユーザーの同意を得た上で、設計していきたいと考えています。

――ヤフーの顧客の多くが30代から40代以上の男性、一方のLINEは若い女性層が中心です。経営統合すると、これまでと異なる客層を対象にしなければならなくなりますが、うまくやっていけるのでしょうか。

川邊氏: ヤフーは8000万人、LINEは8600万人が利用しているメディアです。従ってヤフーの利用者が極端に40代の男性に偏っていたり、LINEには若い女性しかいなかったりということは起きません。濃さの違いはあっても、両社は幅広いユーザー層を持っています。このため、相互に行き来する中で、いかにして異なるユーザー層にアクセスしてもらうかが課題です。そこにインセンティブを付けるなど「デザイン力」が必要になると考えています。

出澤氏: ヤフーもLINEも8000万人級のサービスです。ですからLINEが提供している「LINEMUSIC」も若者層に人気がありますが、全体としては老若男女が使えるように設計しているので、サービス連携はうまく進むと思います。川邊さんも「LINEMUSIC」を愛用されています。

川邊氏: 若いユーザーが使っている「LINEMUSIC」をヤフーのメインユーザーである40代の男性に使ってもらうためのインセンティブや紹介の仕方はきちんと設計していきたいと考えています。

 競争法の関係で統合するまではサービスの開発自体はできませんでしたが、今後はどんどん連携させていきたいと考えています。すでにヤフーのトップページには「LINEMUSIC」を掲載していますし、LINEのメニュー一覧には「Yahoo!トラベル」を載せてあります。相互送客の取り組みは既に始まっています。

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