リテール大革命

「小さいものは淘汰される」 米国スーパーマーケット市場で進む“食の砂漠化”石角友愛とめぐる、米国リテール最前線(2/3 ページ)

» 2021年04月01日 07時00分 公開
[石角友愛ITmedia]

 ウォルマートの立地戦略には特徴があります。ウォルマートは郊外エリアに集中的に展開して町の人々のワンストップショップ(医療、食品、ガーデニングなど何でもそろうお店)になっているイメージが強いですが、実は、都心部でのシェアも多いのが特徴です。

 以下の画像はローカルな企業などを守るために技術支援を行うNPO団体(ILSR)が独自に行った調査の結果です。これによると、43の都心部と160の郊外都市でウォルマートが50%以上のマーケットシェアを占めています(約10%が都心部、約30%が郊外都市にあたります)。特に中南部の都心部でシェアが多いことも読み取れます。

43の都心部と160の郊外都市でウォルマートが50%以上のマーケットシェアを占めている(出典:ILSR)

米国の中南部が抱える「食の砂漠」問題とは

 ウォルマートやコストコのような大手チェーンが用いる販売戦略は、「規模の経済」による効率化されたサプライチェーンシステムとスケールを生かした強力な購買力に基づいています。これが、米国の「食の砂漠」と呼ばれる地域に住む人々に大きな影響を与えている、という意見があります。

 米国農務省(USDA)によると食の砂漠とは「貧困率が20%以上、または世帯収入の中央値が都市部の世帯収入の中央値の80%を超えない地域」で、「都市部では、少なくとも500人または人口の33%が、最寄りの大型食料品店から1.6キロ以上離れた場所に住んでいること、農村地域では、少なくとも500人または人口の33%が、最寄りの大型食料品店から16キロ以上離れた場所に住んでいること」が条件と定義されています。

 現在、米国では総人口の約7%にあたる約2350万人が食の砂漠に住んでいると考えられ、そのうちの約半数が貧困層との統計もあります。

 食の砂漠では貧困に加えて失業率も高く、移動手段がない人が多いのが特徴です。同時に、健康的な食材(果物や野菜などの生鮮食品)を販売するスーパーが近くにないことも問題視されています。

 これが何を意味するのかというと、家族経営の小さいスーパーの購買力では生鮮食品を安い価格で提供できないため、食の砂漠に住む人にとっては高すぎる価格設定となってしまい手が届きません。結果的に独立系スーパーが食の砂漠で生計をたてるのは難しくなり、淘汰されてしまう負の連鎖が生まれているということです。

 また、ウォルマートなどの大手チェーンまで16キロも離れている場合、車を持たない人にとっては買い物が不可能になってしまいます。そこで、残された選択肢として、身近に手に入るファストフードなどを消費する機会が多くなってしまい、これが肥満や糖尿病などの病気のまん延を助長しているとも考えられています。

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