マーケティング・シンカ論

駅ナカ自販機が最大39.5%の売り上げアップ! 陳列商品を提案するAIがすごいコロナ禍なのになぜ?(1/3 ページ)

» 2021年03月05日 07時00分 公開
[渡辺まりかITmedia]

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、人々は外出を控えるようになった。それと比例するように、自販機業界全体の売り上げも下がっている。

 出掛けるとしても、なるべく電車よりも車を選ぶという人が増えたため、駅ナカの自販機の売り上げはさぞかし下がったことだろう――そう思いきや、実はJR東日本の駅構内にある「Acure」ブランドの自販機は売り上げを伸ばしているという。

 その要因は、JR東日本ウォータービジネスが2020年12月に導入したAIシステム「HIVERY Enhance」(ハイバリーエンハンス)だという。同システムの正体は? そして、どのような効果があったのか? JR東日本ウォータービジネスの東野裕太さん(営業本部自動販売機事業部)に話を聞いた。

photo 東野裕太さん(営業本部自動販売機事業部)

最大39.5%の売り上げアップ

 JR東日本ウォータービジネスは、JR東日本の駅ナカに設置してあるAcureの自販機の運営やそこで販売する商品の開発などを行う会社だ。

 選定できる商品は季節ごと決まっていて、130種類。大きな自販機でも42種類しか陳列販売できないため、選定は慎重に行う。一つの自販機にバリエーション豊かな商品を組み合わせると売り上げが伸びそうであるが、成功の秘訣は真逆だった。

 鶴見駅にある自販機では、それまでもブラック缶コーヒーを3種類並べていたが、さらに2種類追加して5種類にした。また、横浜駅ホーム上のある自販機では「青森りんごシリーズ」を1種類から3種類まで増やした。

photo 「これまでの感覚であればどんなに缶コーヒーが売れる自販機でもブラックだけで5品そろえることはなかった」と、現場からも驚きの声が上がっている

 近似環境でAIシステムを使用しなかった自販機と比べた結果、売り上げはそれぞれ11.6%増(鶴見)、8.9%増(横浜)と無視できないほどの増加率であったという。この成果をもたらしたのが、HIVERY Enhanceシステムだ。

 一つの自販機に陳列できる商品数には限りがある。そのため、いくら売れるからといって5種類もの缶コーヒーや3種のりんごジュースを入れておくということに、人間であれば抵抗感を覚えてしまう。しかし、AIにはそのような感情がなく、データが全て。データによって導き出されたAIからの指示に従ったところ、売り上げアップという結果につながったというわけだ。

 売上増が顕著だったのは、東京駅構内にある自販機だ。コールドからホット商品に切り替える際、「じっくりコトコトとろ〜りコーン」と「1本でしじみ70個分のちから」を加えたところ、なんと39.5%も売上率が増えたのだ。

 これは、そもそも東京駅構内にある自販機の売り上げが他の設置場所に比べてひときわ高く、回転のよい商品を入れることで、販売効率が高まったという極端な例といえるが、全体をとしても短期間で成果が出ている。HIVERY Enhance導入からわずか1カ月半で、全体で1.8%、金額にして400万円売り上げが増加した。

 HIVERY Enhanceとは、どのようなシステムなのだろうか。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.