リテール大革命

お店が近所にやってくる! 三井不動産が「動く店舗」で打ち出す、買い物体験の新機軸「移動」を新たな成長分野に(1/3 ページ)

» 2021年02月24日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

 食品、日用品、アパレルなど、たくさんのお店が軒を連ねる商業施設。日常の買い物や週末のお出かけで、そんな施設を訪れる人は多い。また一方で、家に居ながらにして買い物を済ませることができるECの市場も拡大。新型コロナウイルス感染拡大の影響でたくさんの人が集まる場所に行きづらくなったことも、その傾向を強めている。

 そんな買い物行動に、新たな選択肢を提供するプロジェクトを三井不動産が立ち上げた。家の近くに、飲食や日用品、サービスなど複数のお店がやってくる「移動商業店舗」だ。2020年9〜12月に首都圏5カ所でトライアルを実施。21年4月以降の本格展開を計画している。

 三井不動産といえば、「ららぽーと」など大型商業施設の運営を手掛ける。大規模な施設で集客するビジネスと比べると、移動商業店舗は人々の生活圏という小さな範囲を対象とする事業だ。同社がこのプロジェクトで描く、新しい街の在り方を探った。

三井不動産が「移動商業店舗」事業を始める。マンション敷地内などでトライアルイベントを実施した(同社提供、以下同)

コロナ禍の買い物ニーズにも合致

 都心のマンションの敷地内に、色とりどりの車が並ぶ。近隣に住む人たちが訪れ、移動店舗のスタッフと会話をしながら商品を購入したり、サービスを体験したりして時間を過ごす――。東京・豊洲や晴海、板橋などで実施した移動商業店舗のトライアルイベントでは、飲食やアパレル、雑貨、包丁研ぎ、お香、靴磨き、整体など10業種11店舗が参加。近隣に住む人たちでにぎわった。

 「移動商業店舗は、お店とお客さまの距離が近い。トライアルではリピート率も高かった」。そう振り返るのは、このプロジェクトを担当するビジネスイノベーション推進部の後藤遼一氏。新型コロナの影響で、人が多く集まる店などに行く頻度が減る中で、密になりにくい、地域密着型の移動店舗が「買い物を楽しむ」ニーズに合ったようだ。

地域密着型の移動商業店舗はコロナ禍の買い物ニーズにも合った

 ただ、このプロジェクトの構想はコロナ禍以前からあった。構想を温めていた後藤氏が、三井不動産グループの事業提案制度を活用して新事業を提案。約2年前から事業化に向けて準備を進めてきたという。

 後藤氏は同社に入社後、ららぽーとなど商業施設の部門に勤務。販売が伸びずに退店するテナントを多く見てきた。商業施設にテナントとして出店するにはコストが掛かる。一方、短期間で店舗や業態を入れ替えることもなかなか難しい。「移動できる車両を店舗にすれば、出店コストを低く抑え、顧客のニーズに応じて柔軟な対応ができるのでは」と考えたという。学生時代のバックパッカーの経験で印象に残った、“市場”からにぎわいが生まれる海外の光景も目に焼き付いていた。

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