リテール大革命

お店が近所にやってくる! 三井不動産が「動く店舗」で打ち出す、買い物体験の新機軸「移動」を新たな成長分野に(3/3 ページ)

» 2021年02月24日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]
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消費者との「距離の近さ」を実感

 出店するテナント側にとっては、コストを抑えていろいろな場所や時間帯で店を出せることが利点だ。出店に必要なコストは車両リース料と出店料。車両を自社で用意する場合は出店料のみとなる。また、プロモーションやマーケティングの効果も大きい。テストマーケティングとして新商品を販売し、その成果によって今後の展開を判断することも可能だ。

 そして何より、実験では、客との“距離の近さ”を感じる事業者が多かったという。「商業施設では多くの店舗の中で埋もれがちだが、生活圏の近くに来ると目立つ。ブランドメッセージを直接届けられるという声があった」と後藤氏は話す。さまざまな地域で、そこに暮らす消費者に直接話を聞いたり、自社が大事にしていることを伝えたりする機会になる。出店したテナントからは、リピーターが多かったという声や、「移動店舗がきっかけで、本店に足を運んでくれたお客さまもいた」という話もあった。

実証実験では、リピート率が高い店舗も多かった
ECでは提供が難しい、サービス系の店舗は軒並み好調だった

 これまで建物を通じたサービス提供を中心としてきた三井不動産にとっては、移動サービスによって事業の幅を広げていきたい考えだ。商業施設やビル以外の手段があれば、顧客に提供できる商品やサービスの範囲が広がる。また、カバーできるエリアも拡大する。「大きな商圏に大きな施設を点在して建てるだけでなく、毛細血管のように、あらゆる地域で事業展開することもできるようになる。エリアにもコンテンツにも縛られないサービスを提供していければ」と後藤氏は話す。

 移動商業店舗のトライアルでは、コロナ禍ということもあって住宅地を中心に展開したが、今後はオフィスビルの敷地での出店や、商業施設の補完としての展開も想定している。そして、同社が管理している土地以外の場所を含めて、出店場所を広げていきたいという。「病院や公園、公民館、駐車場など、出店のパターンを増やしていきたい。生活に関わるさまざまな場所にアプローチしていく」(後藤氏)方針だ。

 後藤氏は移動商業店舗の展望について、「日本中のいろいろな場所に移動店舗が来る、という環境を作って、買い物や商売ができる機会を広げていきたい」と意気込む。

 将来的には、同社が運営するワークスペースやホテルなどにも移動式サービスを広げていく方針だ。これまでの不動産ビジネスとは異なる「移動」を軸にしたサービスを、多様化が加速する社会の新たな成長分野と位置付けている。

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