リテール大革命

お店が近所にやってくる! 三井不動産が「動く店舗」で打ち出す、買い物体験の新機軸「移動」を新たな成長分野に(2/3 ページ)

» 2021年02月24日 07時00分 公開
[加納由希絵ITmedia]

柔軟な出店で「思いがけない出会い」も

 お店が“移動”する取り組みには、既存の店舗では多様化する消費者のニーズに応えきれなくなっているという背景もある。働き方や暮らし方の変化によって、従来型の店舗やオフィスなどの建物では満たせないニーズも出てきた。特に、新型コロナによる環境変化は、「オフィスで働く」「通勤を考慮して暮らす場所を決める」といった、これまでの常識を変える大きなきっかけになった。

 だから、店舗が移動して人々の生活の中に入っていく。実店舗、ECに次ぐ第3の選択肢として移動店舗を機能させることで、新たな顧客接点を生み出していくことを目指すという。

 実際、移動商業店舗で実現できる買い物体験は、これまでとは大きく異なる。実証実験や調査で見えてきたのは、立地や曜日によってピークタイムとアイドルタイムが移り変わっていくことだ。例えば、平日の朝の時間帯なら、住宅地にはパン屋や靴磨きのニーズがあり、オフィスビルならコーヒースタンドのニーズがある。休日の住宅地ではクリーニングやマッサージなどの需要を想定できる。店舗の業態によって変わるピークタイムに合わせて出店場所を移動させれば、効率的な販売が可能だ。

場所や曜日、時間帯によって変化するニーズに対応(出典:ニュースリリース)

 客にとっては、買い物場所が「いつも同じ光景」ではなくなる。曜日や時間帯に合わせて提案される商品やサービスに触れることができる。また、それに加えて、商品やサービスと“思いがけない出会い”をする機会を得られる。後藤氏は「トライアルでは『このお店と出会ってうれしい』という潜在的なニーズを捉えることもできた。時間と場所が柔軟だからこその感動がある」と話す。

 実験では、飲食や物販だけでなく、包丁研ぎや整体といったサービスの店舗の集客も好調だった。生活に密着したサービスでも、なかなか自宅の近くに専門店がないケースは多い。そんなサービスを提供する店が思いがけず来てくれたら、消費者の買い物に対する満足度は高まるだろう。

行列ができていたという包丁研ぎサービスの店舗
トライアルではその場で予約を受け付けた整体の需要も大きかった

 そのような特徴から、移動商業店舗では、家族で買い物に来たり、近所の口コミで来店したりする姿も目立った。郊外の移動スーパーが高齢者などの交流の場となっている事例は他にも多いが、都心のマンションでも移動店舗がコミュニティー形成につながる可能性があることが分かったという。

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