都市部郊外駅前立地で、焼肉の和民と最も競合しそうな焼肉チェーンは、コロワイド傘下レインズインターナショナルの「牛角」だ。
牛角は日本最大の焼き肉チェーンで、展開を始めたばかりの焼肉の和民とは比較にならないほど、全国に浸透している。
しかし、近年の牛角は、焼肉きんぐなど新興の食べ放題チェーンの勢いにあらがえず、自らも食べ放題企画に走る、王者らしからぬ傾向が目に付く。
牛角における最近の目玉企画は、平日午後6時までの来店で70品以上が90分食べ放題となる「早割食べ放題」(1人2178円)である。20年9月3日から国内236店舗でスタート。394店舗にまで広げて実施してきたが、同年12月7日から一部内容を変更。一部店舗を除く国内606店舗(20年12月1日現在)にまで拡大した。
牛角では、平日の午後7〜9時は混み合いやすいが、午後5時台は比較的混雑が少ない。早い時間への利用を促して混雑を分散し、感染リスクを下げるのが狙いだ。
タン、カルビ、ホルモンなどの定番肉に加えて、サラダ、おつまみ、スープ、ごはんなどが、テーブルオーダーで食べ放題となっている。
狙いは良いのだが、問題はその内容である。食べ放題のうち、牛肉は牛バラトロカルビのタレ・塩ダレ、牛ホルモンの塩ダレ・みそダレ・旨辛みそだけで、豚肉や鶏肉のメニューばかりが目立つのだ。タンは豚のみ2種類、カルビも豚が5種類あって牛よりも充実している。鶏も、鶏もも4種類に加えて、希少部位のぼんちりが4種類ある。
売価が安いから、値段相応の肉しか出せないのは理解するが、「牛角」を名乗る以上、豚と鶏がメインなのは“がっかり感”が大き過ぎる。多少値段が高くなっても、あくまで牛で勝負してほしい。
焼肉きんぐの場合、同じ2178円の「ランチコース」で、カルビ、ホルモンに加えて、ロースも牛なのだ。そのうえ、シメになるビビンバや冷やしぶっかけうどんなどもある。牛角では、同価格のコースで白いご飯しかないのと大違いだ。実は、焼肉の和民でも2178円の食べ放題ランチを土日祝日限定で実施している。内容は牛角と似通っているが、シメのクッパやラーメンがある分だけリッチな気分になれる。
今のところ、牛角の客足が落ちたとは聞かない。しかし、競合他社と比べても勝っているか疑わしい企画を懸命に推すくらいなら、別の方法があるのではないか。例えば、3828円の通常食べ放題メニュー「牛角コース」で提供している30日間熟成の厚切り「カルビステーキ」などをなぜもっと宣伝しないのだろうか。また、鴨ロースもある。焼き肉店で鴨肉を提供すること自体が珍しいのだが、運営側は特にアピールすべき点だと考えていないようだ。
黒毛和牛というストロングポイントを適切に宣伝している焼肉の和民と比べても、牛角は推すべき商品を間違えているように感じられて仕方ない。
もっとも、今の牛角の顧客層は価格に対してとても敏感で、単価が高い商品の宣伝方法が難しい面があるのかもしれない。
新興の焼肉の和民は、既にブランドを確立している牛角の牙城を崩すことができるか。ワタミがから揚げの天才などと共に焼き肉業態を伸ばして、居酒屋中心の外食企業から脱却してコロナ禍を乗り切り持続していけるのか。今後の動向を見守りたい。
長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)
兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。
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