「緊急事態宣言下に通勤する人」を叩いても、テレワークが普及しない根本的な理由スピン経済の歩き方(4/5 ページ)

» 2021年04月28日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本社会あるある

 さて、このように実際は原因だと思われていることが、冷静になって客観的なデータで分析をしてみると、なんの根拠もない根性論にすぎなかったのは、「テレワーク実施率の低さ」だけではない。実は同じような構造は、われわれの身の回りにあふれており、まさに「日本社会あるある」と言ってもいい。

 その代表が「生産性向上」だ。

 生産性向上というと、作業効率をアップとか、仕事中にサボらない、結局チームワークが大切だ、とか高校野球の監督のようなことを言い出す人が日本には多いが、国が掲げている「生産性」というのは数字に基づいたものなので、個々がどんなに気合を入れても、根性を叩き直しても、ほとんど「向上」しない。

 労働が生み出す付加価値なので、シンプルに賃金が大きな影響を与える。ご存じのように、日本は世界でも有数の低賃金重労働国家で、韓国よりも低い賃金が定着している。では、なぜこんなことになってしまったのかというと、先ほども触れた産業構造だ。低賃金重労働でしか経営が成り立たない零細・小規模企業で働く人たちが異様に多いからだ。

 こういう産業構造を見直さないことには、どんなに国民が一致団結しても、下町ロケット的な感じで会社に泊まりこんで技術に磨きをかけても、生産性は低いままなのだ。

 そして、このような産業構造というシステムの問題を精神論で解決しようという無謀なチャレンジは、今日本人の多くが恐れている「医療崩壊」にも当てはまる。

なぜ日本で、医療崩壊してしまうのか

 日本よりも桁外れに感染者や死者が多い国で、「医療崩壊しました」なんてニュースをほとんど耳にしていないことからも分かるように、「人口1300万人の世界有数の巨大都市・東京が、コロナ重症患者が50人出たら医療崩壊寸前」というのは日本独自のユニークな現象である。

 なぜこんな不思議なことが起きているのか。今の日本社会でこの疑問を突き詰めていくと、「貴様! お国のために戦う医療従事者の皆さんにケチをつけるのか」と非国民扱いされるためタブー視されているが、実はこれも医療の「産業構造」で全て説明できる。

 日本は、独自に発展した医療システムのせいで、諸外国と比べて異常なほど「小さな民間病院」があふれかえっている。そんな「小さな民間病院」の業界団体である日本医師会が、政府与党の最大の有力支持団体になって、政治に口を出せるというこれまた諸外国ではほとんど聞かない異常な関係性がある。

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