日本のアニメは海外で大人気なのに、なぜ邦画やドラマはパッとしないのかスピン経済の歩き方(5/6 ページ)

» 2021年05月05日 08時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

海外で戦える「強さ」

 さて、このような話をすると、気になるのは、なぜ「アニメ」は民放キー局の制作支配から逃れることができたのかというと、重村氏によると「広告」の影響が大きいという。

 アニメは視聴率の稼ぎ頭だが、今と違って「視聴者が子ども」という時代が長かったため、自動車や家電などの太い広告クライアントから敬遠された。そこで民放キー局としては放映権のみを支払い、制作にそこまで関与しなかった。製作費も、広告代理店やおもちゃメーカーと組んで、グッズ展開などで自分たちで稼ぎなさいよ、と製作会社を突き放したのだ。

 だが、結果としてこれが良かった。クリエイティブの足を引っ張る民放キー局の「忖度カルチャー」と距離をとったおかげで、アニメはコンテンツ制作の質向上と、ビジネスへの真剣度、自由度につながって、結果として海外で戦える「強さ」が身についたというわけだ。

 ちなみに、この構造はマンガにも当てはまる。当たり前だが、出版社はテレビ局のように国の庇護下にある許認可制ではない。『ジャンプ』も『マガジン』も常に新規参入や厳しい競争にさらされており、広告ビジネスで食っているわけでもないので、面白くないマンガばかりを掲載すれば容赦なく廃刊・休刊になる。

 だから、編集者も漫画作者も死に物狂いでいいコンテンツをつくる。生き残るためには、読者が頭打ちの日本を飛び出して、必死に海外進出も目指す。テレビドラマのように、スポンサーがどうしたとか、大手芸能事務所への忖度でアイドルをキャスティングしなきゃ、とかどうでもいいことに時間とリソースを割く余裕はない。

 つまり、厳しい競争環境によって、純粋に世界に通用するようなコンテンツをつくるしか生き残る道がないのだ。だから、飛び抜けた才能を必死に探して育てるし、国内だけではなく、より大きなマーケットで勝負する仕組みも本気で整備するのだ。

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