YouTubeで大ブレイク中のひろゆき、コロナ禍で人気の秘訣はどこに?古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(3/3 ページ)

» 2021年05月28日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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「切り抜きチャンネル」をうまく使いこなす

 しかし、いかにモノがよくても、マーケティング的な視点がなければ広がりは見えない。しかし、この点でもひろゆき氏は卓越していた。それが切り抜きチャンネルの使いこなし方にある。

 ひろゆき氏のお悩み相談コンテンツがYouTubeで人気になり始めると、いわゆる「切り抜きチャンネル」が雨後の筍(たけのこ)のように生まれ始めた。実は、今では本人よりも切り抜きチャンネルの方が数字上の成果を出している。

 本家のひろゆき氏のチャンネルが総再生数約7700万回であるのに対して、とあるひろゆき動画切り抜きチャンネルでは約1.8億回の総再生数を誇っている。ほかにも1億再生以上のひろゆき動画切り抜きチャンネルが複数存在しているのだ。

 切り抜きチャンネルの多くは、コンテンツ主の許可なしで配信の見所をカット編集(切り抜き)し、字幕や図表などを加えることで見やすく短くまとめている。いわば、「動画版まとめサイト」だ。

YouTubeで「ひろゆき」で検索すると、再生回数上位には、動画版まとめサイトである「切り抜きチャンネル」がずらっと並ぶ

 2ちゃんねるが5ちゃんねるになった今でもネット上で一定の影響力があるのは、まとめサイトのようなグレーの二次配信を行う人がいるという側面もある。ライトな利用者からは歓迎されている一方で、掲示板利用者にとっては自分の書き込みを転載されるだけでなく、広告収入のタネとされている点について、いい印象を持たれていないのも事実だ。

 そういう理由で、動画版まとめサイトともいえる動画の切り抜きチャンネルも、時には動画の権利者削除やチャンネル凍結を受けることもしばしばあった。

 しかし、当初は切り抜きチャンネルを黙認していたひろゆき氏は、今では切り抜きチャンネルを半ば“公認”している点で注目だ。ひろゆき氏によれば、同氏の配信コンテンツを切り抜いた人から、切り抜き動画で得られた広告収入の一部を受け取れるYouTubeのコンテンツIDという仕組みを活用して、収益分配を受けられているという。

 ひろゆき氏の配信コンテンツは1本あたり1時間をゆうに越えるものであり、自分と共感できるコンテンツや必要な情報にたどり着きにくい。一方で、切り抜き動画は単発で1つのテーマを1分、長くとも10分以内でまとめている。ライトなひろゆきファンにとっては、むしろ切り抜き動画の方が便利であるといった利点もある。

 現に「ひろゆき」という動画のコンテンツを再生数順で並べ替えると、ほとんどが切り抜き動画で、公式のコンテンツが後じんを拝するような状況となっている。

 しかし、ひろゆき氏本人が切り抜き動画を出したとしても人気になりづらいだろう。なぜなら、切り抜き動画の性質が「この回答は面白い・役に立つ」というものである以上、自分で切り抜き動画を上げるのは、自分で自分のコンテンツが面白いと宣伝するようなものであり、いやらしさが出てしまうからだ。それだけでなく、切り抜いて字幕を入れてまとめるという編集コストもバカにならない。

 そうであれば、収益をシェアする形でひろゆき氏は何もせずともお金が入る仕組みにすることは理にかなっている。一方で、ひろゆき氏がそのような切り抜きチャンネルを公式化しない理由としては、切り抜きの仕方やまとめ方に問題があり、炎上騒動になってしまったとき自身に、その責任が降りかからないようにリスクヘッジするためで、この点も抜かりない。

 そういう意味では、ひろゆき氏は切り抜きチャンネルを最も使いこなしているといっても過言ではない。

 以上より、ひろゆき氏はコロナ禍という時期を捉え、独自性のあるお悩み相談というコンテンツ面だけでなく、切り抜き動画チャンネルによってそのコンテンツを第三者の視点から広く届けてもらうというマーケティング面の両輪がそろったYouTube戦略を実施している。ひろゆき氏がコロナ禍のYouTubeでブレイクするのは必然だったのかもしれない。

 なお、ここまで検討したひろゆき氏の配信で語られる内容の一部については、やはり一般的にはなかなか受け入れ難いものであったり、必ずしも正確とはいえない知識面での回答もある。生配信でここまでの引き出しと反応力があることは、やはりひろゆき氏の卓越した教養と人をひきつける魅力があるからこそではあるが、視聴者の側としてはそのような情報も含まれることを見抜ける人でないと、彼の配信を活用するのは難しいだろう。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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