上述した「vTaiwan」と「Join」では、いずれも会議の様子がWeb上で中継されるとともに、話された内容は一字一句漏らさず記録され、公開される。とことん情報が透明化されているのだ。これもまた、オードリー氏の強い信念に基づいているという。
「彼女はIT大臣に就任して以来、オフィシャルのアカウントに届くメールの内容とその返信を、プライバシーに配慮したうえで、すべてWeb上で公開しています。自分が受けたインタビューを一字一句残さず記録したものも同様に公開されている。彼女は、政府が何かを決定するまでのプロセスを社会に提示することが重要だと語っています」
こういった情報の透明化には、2つの側面がある。一つは、まさにデジタル化の恩恵である「効率性」だ。オードリー氏には数えきれないほどの相談や意見が届くそうだが、その中には似通った内容も多いとのこと。メールやインタビューの内容を漏れなく公開することで、似たような質問に回答する手間をなくしているのだ。
もう一つは、デジタル民主主義を推進する基盤ともいえる「信頼性」。
「説明責任が果たされ、情報が公開され、プロセスが透明になれば、国民はおのずと政府を信頼するようになります。国民が政府を信頼し、政府もまた国民を信頼したからこそ、他国より強権的ともいえる厳しいコロナ政策が効果的に働き、台湾は封じ込めに成功できたのです」
現在の台湾といえば、18カ月にわたって抑え込んできた新規感染者が5月中旬から急増。全域で警戒レベルを第3級(第1級がもっともゆるく、第4級がもっとも厳格)とし、6月14日まで対策を継続すると発表した。
台北市などいくつかの地域で飲食店での店内飲食を全面的に禁止するほか、カラオケ店、ゲームセンター、映画館などの営業停止も。家族を含む集まりも屋内で5人、屋外で10人までで、屋外でもマスク着用が義務付けられる。日本の政策に比べると厳しさを伴うが、これも政府と国民間の信頼あってのことなのだろう。
「デジタルを活用し、希望を持てる未来に変えていくには、高度なITスキルだけでは不十分。『多様性』や『透明性』といったデジタル革命の本質となる思考を取り入れることが先決だ」と早川氏は指摘する。世界から称賛される台湾社会を見れば、日本が向かうべき道筋は明らかではないだろうか。
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