九州新幹線西九州ルート、並行在来線問題の解決と「幅広い協議」の行方杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/6 ページ)

» 2021年06月18日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

「フル規格新幹線押し売りお断り」は地方自治の根幹の問題

 佐賀県側から持ち出された「3ルート」は、提案ではなく検討の要請だ。議事録を見ると「九州の発展のために別のルートを検討したらどうか」であり、「佐賀県にフル規格は要らない」という主張は変わらない。

 佐賀県の主張の根拠を理解するために、これまでの経緯を知っておきたい。

 九州新幹線西九州ルートは福岡市〜佐賀市付近〜長崎市とし、福岡市から筑紫平野分岐点までは鹿児島ルートと共用する。建設主体は日本国有鉄道である。これが1973年に運輸大臣が決定した計画だ。国策だから佐賀県は反対しない。むしろ歓迎だっただろう。しかし87年に国鉄が赤字問題の果てに分割民営化されると事情が変わる。

 新生JRにとって新路線の建設は慎重だ。「第二の国鉄を作らない」ために、いったんフル規格新幹線の整備は見送られた。しかし整備新幹線は国策であり、JRに継承してもらわないと困る。

 そこで運輸省は88年に建設コストを下げるため「ミニ新幹線方式」「スーパー特急方式」という新たな方式を提案する。「ミニ新幹線方式」は在来線を改良して線路設備を対応させる仕組みで、山形新幹線や秋田新幹線で実施された。「スーパー特急方式」は新規路線を建設するけれども、線路設備は在来線規格のままとする。

 しかし、長野オリンピック開催を契機に北陸新幹線(長野新幹線)の高崎〜長野間が全線フル規格に変更された。この時に建設費負担について新たな枠組みが作られ、JRが新幹線収益などから最大50%を負担、国が35%、地方自治体が15%を負担すると決められた。地元のメリットがある部分は受益者が負担しなさい、という意味だ。併せて、並行在来線はJRから分離するとも決められた。

 地方自治体は、在来線の維持、建設費の負担があるなら「まがいもの新幹線ではなくフル規格にしてほしい」と考える。北陸新幹線のフル規格着工をきっかけに各地からフル規格化の要望が高まった。東北新幹線の盛岡以北、九州新幹線鹿児島ルート、北陸新幹線の未着工区間はフル規格となった。

 そこで96年に新たな枠組みが作られた。「JRは受益の範囲内で線路設備の貸付料を支払う」「JR負担分を除き、残りの3分の2を国、3分の1を地方自治体が負担する」。地方負担分のうち90%は地方債の起債が認められ、元利合計の50%〜70%に対して国が地方交付税として補てんする。つまり地方の実質負担は約12%〜18%となる。

 九州新幹線西九州ルートも長崎県側からフル規格の要望が出された。しかし佐賀県はフル規格新幹線を求めなかった。フル規格化の利点と県の負担分が見合わないし、新幹線が開業すれば赤字必至の在来線まで負担できないという判断がある。佐賀県の合意は「在来線を活かし、一部で高速走行用線路を建設する」という「スーパー特急方式」までだ。ここから先へ進む必要はない。

 長崎県側はフル規格で全線開通してほしい。JR九州もフル規格にしたい。そこで国などから「フリーゲージトレイン」が提案された。高速走行用線路区間をフル規格新幹線として建設し、在来線はそのままとする。両方を直通する列車を開発する。博多〜新鳥栖間はフル規格となった鹿児島ルートと共用し、新鳥栖〜武雄温泉間は在来線を走り、武雄温泉〜長崎間はフル規格区間を走る。これなら佐賀県も異存はない。

現在、博多〜長崎間を走る特急「かもめ」。西九州新幹線開業後は「リレーかもめ」として博多〜武雄温泉間を運行予定

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