九州新幹線西九州ルート、並行在来線問題の解決と「幅広い協議」の行方杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2021年06月18日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 つまり佐賀県は、政府側がいったん諦めた他の選択肢もあらためて検証してほしいわけだ。ただし、幅広い協議の中にはもちろん「フル規格」もある。つまり、佐賀県が納得できれば、フル規格の可能性はゼロではない。こうした経緯による佐賀県の主張が「フル規格なら3ルートを検討してほしい」であり、決して「フル規格として3ルートを提案」するのではない。

 ちなみに3ルートとは、既存の長崎本線に沿って佐賀駅を通るルート(佐賀駅ルート)の他、佐賀市の北部、長崎自動車道沿いの「北ルート」、佐賀空港沿いの「南ルート」だ。どちらも佐賀県内の与党議員から意見が出たという。

 北ルートは高速道路と接続すれば、西九州全体の交通結節点として活用できる。新幹線と高速道路を平行させれば、高速バスより圧倒的な速度で長崎へ直行できる。

 南ルートは佐賀空港と福岡空港の連携が可能となる。福岡空港は国内線、国際線とも発着回数が多く、これまでもチャーター便を佐賀空港で受け入れた実績がある。佐賀空港は佐賀県が運営していて赤字経営だから、新幹線発着で経営を改善できるという意味で佐賀県にもメリットがある。

 福岡空港は2本目の滑走路を建設中だけれども、2つの滑走路の間隔が狭いため同時発着はできない。せいぜい発着間隔を短くする程度で、発着回数は2倍にならず、3割増し程度だ。例えばラオス航空は福岡空港発着を希望していたけれども、福岡空港の発着枠を獲得できず熊本空港に発着予定だ。熊本空港を選んだ理由として、新幹線で福岡へ行ける要素もあったかもしれない。

 佐賀県が3ルートの検討を求めた理由は「どうしてもフル規格を国が進めるというなら、佐賀県というより、西九州全体や九州の首都福岡のメリットを考えたらどうか」である。「佐賀県にこだわらず、国策として勝手にやっていただきたい」という意味にも取れる。佐賀県の負担割合も減るだろう。いや、佐賀空港案なら積極的になってくれるかもしれない。

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