「格差の是正」へ舵 経産省の“画期的”提言が「コロナ禍で生まれた希望」といえるワケ「緊縮財政」路線からの転換点(2/6 ページ)

» 2021年06月25日 17時40分 公開
[森永康平ITmedia]
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まん延する自己責任論

 業種による格差を見てきたが、別の観点からも“分断”が加速した事実を見てみよう。総務省が発表している労働力調査において、2020年の雇用者数を雇用形態別で見てみると、正規雇用者は19年の3494万人から20年には3529万人となり、1年で35万人増加している。一方で、非正規雇用者は19年の2165万人から20年には2090万人となり75万人の減少となった。結果として役員を除く雇用者数は全体で40万人減少している。

 つまり、コロナ禍においては解雇しやすい非正規雇用者が景気の調整弁とされたといえる。正規雇用か非正規雇用かという雇用形態でも“分断”が加速しているのだ。ちなみに、「仕事からの収入」という分析軸で失われた雇用者を雇用形態と性別で区分けしてグラフ化すると下図のようになる。

phot 総務省「労働力調査-2020年平均結果-」のデータをもとに株式会社マネネが作成。

 職を失った大半が年収200万円未満の非正規雇用者であり、そのなかでも女性の非正規雇用者が多いことは一目瞭然だ。考えてみてほしい。年収が200万円に満たない非正規雇用者が急に解雇されたときに何が起きるだろうか。毎月の手取り額が20万円もないわけだから、家賃や水道光熱費、食費などの生きていくうえで必要なお金を払ってしまえば手元に残るお金はない。まともな貯蓄もない場合もある。

 そこで急に収入が途絶えたら、最初は親族や知人からお金の工面をしながら次の職を探すかもしれない。だが、何カ月たっても新しい職につけなければ、最悪の場合は自ら命を絶つ選択もあり得る。

 警察庁が発表している統計によれば、20年から女性自殺者数の前年同月比の変化率は大きな伸びを示している。

phot 警察庁「生活安全の確保に関する統計等」のデータを基に株式会社マネネが作成。

 この統計を持ち出すと、自殺者の全てが経済苦を理由にしているわけではないという指摘も予想される。だが、病気などの健康的な理由で亡くなった人の中にも貧困が理由の人もいるわけで、失業率が高まるなか十分な支援がなされない失政によって救えたはずの命が救えなかった事実は重く受けとめなければならない。

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