また、注目すべき点としては、財政収支への配慮は見せつつも、超低金利下では財政支出のコストは低いことを明記したうえで、財政の歳入面(税収)についても財源として徴税するのではなく、格差の是正などミッション志向で実施することに言及していることもこれまでにはなかった表現だ。
この内容を少しかみ砕いてみる。日本では少子高齢化が進み、国の借金も1200兆円を超え、国民1人あたりに換算すると1人あたりの借金が1000万円弱まで膨らんでいる。今後も社会保障を維持するためにはさらなる消費増税をする必要があるのだ。さもなくば近い将来、日本は財政破綻を迎え、ハイパーインフレになる話は一度は耳にしたことのある説明だろう。この言説が染みついた状態で、コロナ禍における経済政策のことを考えてみよう。
前述の通り、コロナ禍では“分断”が加速し、資産を大きく増やした富裕層がいる一方で、1日を生き抜くだけで精いっぱいという生活困窮者も増えた。生活困窮者を支援すべく、20年は国民全員に定額給付金を配った。だが、1年半以上に及ぶコロナ禍においてただ一度の給付では明らかに足りない。
そこで再度給付しようという話になると、生活に困っていない人たちは反対をする。国からお金をもらうほど生活に困っていないし、その結果、将来さらなる増税をされたら困る。そもそも、自分はコロナ禍でも解雇もされず、投資をしてむしろ資産を増やすことができた。自分が天才なわけではなく、努力をしたからそのような結果になった。
つまり、コロナ禍で困窮している人たちは努力をしなかった結果なのだから、わざわざ血税を使ってまで救う必要もない、という話になる。いま世の中にはびこる「自己責任論」そのものだ。
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