シウマイだけではなく、シウマイ弁当もできるだけシンプルにこだわる。先に触れたように、かつては試行錯誤を繰り返したものの、この十数年は中身を変えていない。野並社長も「今の形が完成した姿」だとしている。しかし、変えない中にも、美味しく食べてもらうための工夫を随所に凝らしている。
人気のおかずである筍煮は、シンプルな味付けだが、何千人分という量を一気に煮ることで、深い味わいが出るそうだ。
ご飯についても、冷めても美味しく食べられるように仕上げる。その工夫の一つが、火を使わずに蒸すことである。
「初代社長が、ご飯のおこげが捨てられているのを見て、もったいないと思ったのが始まりです。鉄の窯を使い、薪の火で炊くのではなく、ボイラーで蒸気を起こし、それを米の入った木の桶に突っ込んで蒸し上げる方法にしました。これによって、うるち米がまるでもち米のような粘りのあるご飯になります」
さらにもう一手間加える。経木の弁当箱を使うのだ。プラスチックだと、ふたを開けたときに、ふたについた水滴がぽたぽたと落ちることがある。あれがご飯をまずくしているそうだ。
かつらむきにした経木のふたを使うことで、温かいご飯の余分な蒸気を調整することができる構造にしている。他方、底板は木目に沿って切ることにより、しょうゆや出汁(だし)などが漏れないように配慮している。このような経木の弁当箱がおひつの役割を果たし、冷めても美味しい弁当にしているという。
「シウマイ弁当で、一番変えやすいものは何かといえば、弁当箱です。スーパーやコンビニの弁当で使われているフードパックであれば、コストは大幅に下がるし、明日からでもすぐに交換できます。だけど、それは変えてはいけないものです」
変えやすいものほど、変えてはならぬ。野並社長は何度も繰り返した。
一方で、野並社長が変えたことについては、前回の記事「借金100億円をゼロにした崎陽軒・野並直文社長 横浜名物「シウマイ」を救った“2つの変革”とは?」に詳しい。人事制度や商品の開発、販売などの面で、抜本的な経営改革を推し進めた。これが倒産寸前の崎陽軒の窮地を救った。
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