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» 2021年07月01日 07時00分 公開

デジタル時代でも、感動を与えるのは店舗──中川政七商店、ユナイテッドアローズのCDOが語る哲学長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」 これからの小売り論(1/4 ページ)

元メルカリCIO長谷川秀樹氏が、IT改革者と語る「IT酒場放浪記」。今回のゲストは、中川政七商店 取締役CDOの緒方恵氏と、ユナイテッドアローズ 執行役員CDOの藤原義昭氏。小売り企業のDXを最前線で進めてきた二人が、今あらためて考える店舗の価値、ECの意義とは?

[酒井真弓,ITmedia]

連載:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」

東急ハンズCIO・メルカリCIOなどを務め、現在は独立してプロフェッショナルCDO(最高デジタル責任者)の道を進む長谷川秀樹氏が、個性豊かな“改革者”をゲストに酒を酌み交わしながら語り合う対談企画。執筆はITライター・ノンフィクション作家の酒井真弓。


 プロフェッショナルCDO(最高デジタル責任者)の長谷川秀樹氏が、改革者と語り合う本対談。今回のゲストは、中川政七商店 取締役CDOの緒方恵氏と、ユナイテッドアローズ 執行役員CDOの藤原義昭氏。

左から藤原義昭氏(ユナイテッドアローズ 執行役員CDO)、緒方恵氏(中川政七商店 取締役CDO)、筆者、長谷川秀樹氏

 緒方氏は、長谷川氏と東急ハンズで苦楽を共にし、2016年からは創業300年の老舗・中川政七商店でEC・デジタル戦略を強化。組織全体のDXを推進してきた。入社前は、「何も知らないよそ者がデジタル化とか何やねん」に始まり、信頼を勝ち取るところからのスタートだと想像していた。だが実際は違った。「日本の工芸を元気にする!」というビジョンの組織で、デジタルを駆使して同じ目標に向かおうとする緒方氏の存在を煙たがる社員は、一人もいなかったという。

 一方、2000年にコメ兵のECサイトを立ち上げ、グループのDXをリードしてきた藤原氏は、新たな活躍の場を求め、この4月、ユナイテッドアローズに入社した。「アパレル企業はDXがほとんど進んでいない」と藤原氏は言う。理由は、これまではそんなことをしなくても売り上げが上がっていたから。それが今、コロナ禍で大きく揺らいでいる。

 リアル店舗で、ECで、今何が起こっているのか。

動画で見る「IT酒場放浪記」

記事にできなかったあれこれ、取材の裏側をYouTubeでご覧いただけます。


店ってこれからどうなっていくの?

長谷川: 最近驚いたのは、バニッシュ・スタンダードが提供する「STAFF START」。リアル店舗の販売員が自社のECサイトやSNSへコーディネート写真を投稿し、販促につなげられるサービスで、自分の投稿をきっかけにどのくらい売れたかが可視化される。理想でありながらも遅々として進まなかった「ECとリアル店舗の融合」が、現実のものになろうとしています。

 一方で、ECによって、リアル店舗の価値は下がっていくと言う人がいる。小売りの経営者はみんな、「デジタルでもっと集客できへんの」という問いを持っている。店は、これからどうなっていくと思いますか?

藤原義昭氏(ユナイテッドアローズ 執行役員CDO)

藤原: 出店かECかという対立構造で語られがちですが、僕は両方やるべきだと思っています。

 店数の多さはブランドを作ります。例えば、ハンバーガーが食べたいと思ったとき、通り道にあるファストフード店と行動圏外のファストフード店だったら、確実に前者を思い浮かべますよね。ソーシャルメディアでの露出はもちろん必要ですが、お客さまの脳裏に焼き付かせるためには、目に見える実店舗の存在が重要なんです。

緒方: ECは「便益の最適化」を目指し、店舗で「体験の最高化」を目指すのが良いと考えています。

 ECサイトで感動させるって難しいんですよ。プロや業界関係者なら、「このECサイトのUXは素晴らしい」と気づいてくれるかもしれませんが、お客さまの心が動くのは、美しい包みを開いたら手紙が入っていたとか、商品の使い心地がとても良かったとか、リアルな体験です。

 ECがどれだけ進化しようがリアルな体験に追い付くことはない。感動を作れるのは、店だと思います。

藤原: 販売員のバリューも変わってきていますよね。少し前までは豊富な商品知識が重視されていました。でも今は、お客さまの体験の価値をどれだけ上げられる存在になれるかです。

 白シャツを求めて来店したけれど、コーディネートのプロである販売員と話すうちに、実はブルーのシャツの方が似合うことに気づいたとか。そういう体験を提供できるかどうかに、店の未来がかかっていると思います。

緒方恵氏(中川政七商店 取締役CDO)

緒方: Webで新規顧客を獲得するのは想像以上に大変なんですよね。インターネット広告、SNS、動画などさまざまな工夫や導線が必要です。当然お金もかかります。

 でも店なら「いい感じの門構えだな、入ってみよう」「あ、おしゃれな雑貨がある」、手に取って「へー、こんな背景がある商品なんだ」、というようにスッと入ってくる。

 ここまでで何が起きたのか分解すると、「いい門構えだな」というセンスの一致。近づいてみると雑貨店。雑貨に興味がない人は離脱してしまうかもしれないけれど、「ちょっとお皿を見たいな」と思ったら、カテゴリーニーズの潜在的な一致。中に入って気になった商品を手に取る。そこに接客というコミュニケーションが生まれる。

 「少し高価な伝統工芸の皿」が店にある、というだけでは本当の価値は伝わらない。だから、接客でフォローすることを重要視しています。便益的な価値だけではなく、どんな歴史を歩んできたものなのか、どんな技術が使われ、誰がどんな汗をかいて作ったものか、ものづくりの背景を伝える。

 情緒的価値とセットで買っていただくことによって、再訪の確率を上げるのが在庫の考え方として重要。誤解を恐れずに言うと、店は一番CPA(顧客獲得単価)が安いメディアになり得るんです。

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