隈研吾氏がデザインした「角川武蔵野ミュージアム」なども注目される、ところざわサクラタウン。KADOKAWAと角川文化振興財団が所有・運営する複合施設で2020年11月にグランドオープンした。そこにKADOKAWAの新オフィス、所沢キャンパスもある。
KADOKAWAは、所沢キャンパスの稼働時をめどに、エンターテインメント企業として場所にとらわれず楽しく充実した働き方を目指すABW(Activity Based Working)を推進してきた。社員がフラットに集える場としてのオフィスを用意する一方で、自宅を含めどこでも働けるシステムを約5年かけて構築したという。
この働き方改革が功を奏し、社員数約2000人の大規模出版社でありながら、コロナ禍では約7割のリモートワーク勤務率を実現した。しかし、その道のりは決して単調ではなかった。
出社して紙の原稿を回しながら作業をする文化の出版社が、自宅を含めどこでも働けるようになるのはハードルが高く、「出社していないと休んでいると勘違いされる」ということもあったという。加えてKADOKAWAは複数の企業が合併した背景から、当初は社内で使用するコミュニケーションツールがバラバラで社員のITリテラシーも高くなく、ツールの統一と浸透には苦心した。
このような課題をどのように乗り越えてきたのか。総務・人事・ICT担当が横串で連携する“ABW推進チーム”に所属する鈴木寛子氏(KADOKAWA グループ人事局 人事企画部 人材開発課 課長)と渡辺基子氏(KADOKAWA Connected Customer Success部)に、話を伺った。
KADOKAWAでは15年頃から働き方改革の準備を開始した。14年に現在のところざわサクラタウンにあたる土地を取得し、オフィス移転の計画と同時に働き方改革も進めた形だ。
KADOKAWAは出版社らしい社風で、編集部員の出勤時間はまちまち。ルール上、勤務時間は定められているものの、自主性に任されていた。そのような背景もあって、働き方改革で重視したのが「働く場所」についてだ。
始めにスマートフォンの全社員配布を実施し、その後フリーアドレス化とリモートワークのトライアルを進めた。トライアルは、50人程度の参加者を募って実施した。
当時は「どこでも働けるようになるための練習」(鈴木氏)という意識だったという。実際にやってみることで、原稿など機密情報の扱い方や、休んでいると勘違いされて連絡が滞るという課題が見えたという。「もっと大掛かりに実施するには、ルールの設計や事前の手配をどのようにすればいいのか、トライアルを通して探っていきました」(鈴木氏)
働く場所を自由にするうえで外せないのが、コミュニケーションツールをはじめとするICTの活用だ。しかしKADOKAWAは13年に複数の会社が合併しているので、社内で使っていたICTツールがばらばらだった。個人が勝手に導入したツールも氾濫していて、「セキュリティ的にも良くない状況でした」と渡辺氏は振り返る。どこで働いてもいいという環境にするには、ICTツールの統一が急務だった。
そのような中、ICTツールの統一と浸透に役立ったのが、マンガを活用してICTを推進するというユニークな取り組みだ。
「KADOKAWAはいわゆる紙文化で、ITリテラシーは低めの社員も多いです。ICTツールの使い方に慣れていないので、使うこと自体が負担になります。ICT部門でベストなものと考え用意したツールに興味を持ってもらって、使い方を習得できる方法は何かと考え、出版社だったらマンガでしょうという結論になりました」(渡辺氏)
そこで渡辺氏が、ICTツールの使い方や気を付けるべきポイントを説明するシナリオを考え、ビジネスセンスに優れた漫画家がキャッチーな4コママンガに仕上げる連載を19年秋に開始した。すでに連載100話を超えているという。(下記にマンガの一部を公開)
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