コロナ禍でも改革断行で黒字転換のアダストリア 多ブランド展開で進める“差別化”と“課題”磯部孝のアパレル最前線(4/4 ページ)

» 2021年08月03日 06時00分 公開
[磯部孝ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

都心一等地での展開には課題

 アダストリアの現在の姿を見れば分かるように、主要8ブランドで国内979店舗を展開。その中でも一番多いくくりが「その他」で275店舗だ。その他に含まれるブランド数は23を数え、性別年齢、好みに応じて横にブランドを広げている。あくまで、よそ行きの外出着を割安に訴求していく姿勢にブレは無い。

 出店数やブランド展開から見るに、同社は商圏20万人以上を対象とした都市型のファッションビジネスかと思うと、決してそうではない。2010年に新宿3丁目の一等地に、複合型店舗「コレクトポイント」を出店したが13年に退店。渋谷にあったグローバルワークも昨年に閉店(現在はアダストリアの韓国系セレクトショップALANDが営業)と、都心の一等地での営業は不得手のようだ。

 都心の一等地で“安価”なファッション衣料を展開するには、客単価を稼ぐために取扱い商品数を増やし、家賃、人件費に見合うだけの集客をする必要がある。コロナ禍で、インバウンド客が見込めなくなったユニクロの旗艦店も、決して黒字ではないだろう。日本の一等地で売上高を稼ぐのは、決して容易なことではない。

ユニクロ グローバル旗艦店のUNIQLO TOKYO

 横にブランドを広げていく手法で課題といえるのは、グループ内による“食い合い”だ。店舗業態にバラエティがなく、出店立地が駅ビル、ショッピングセンターに集中すると顧客のすみ分けがどこまでできるのかも課題となる。実際、筆者から見てもアダストリアが展開するファミリーコンセプトで、ブランド同士の違いが見分けにくいものもある。

 新型コロナの変異株の感染が広がる中で行われている東京オリンピック。緊急事態宣言が発出される中、ほぼ無観客で行われた異例ずくめの大会となった。オリンピックによる経済効果は期待出来ないものの、スケートボードなど日本人選手の活躍が報じられた新しい競技用品については、売り上げが好調のようだ。

アダストリア

 こうして、新ヒーローや新ヒロインが生まれてくると、ファッションも呼応して活性してくる。スケートボードは街中から生まれたスポーツで、カジュアルファッションとの親和性も高い。これを商機に“横展開”で新たなブランドが誕生するかもしれない。

著者プロフィール

磯部孝(いそべ たかし/ファッションビジネス・コンサルタント)

1967年生まれ。1988年広島会計学院卒業後、ベビー製造卸メーカー、国内アパレル会社にて衣料品の企画、生産、営業の実務を経験。

2003年ココベイ株式会社にて、大手流通チェーンや、ブランド、商社、大手アパレルメーカー向けにコンサルティングを手掛ける。

2009年上海進出を機に上海ココベイの業務と兼任、国内外に業務を広げた。(上海ココベイは現在は閉鎖)

2020年ココベイ株式会社の代表取締役社長に就任。現在は、講談社のWebマガジン『マネー現代』などで特集記事などを執筆。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.