ネットフリックスは「伸び悩んでいる」は本当か? ゲーム参入でも踏襲する“必勝パターン”本田雅一の時事想々(1/3 ページ)

» 2021年08月05日 07時00分 公開
[本田雅一ITmedia]

 これまで何度も“伸び悩み”というキーワードで、将来の成長性に疑問を投げかけられ、そのたびにアナリストの懸念を吹き飛ばしてきたネットフリックス。だが、そろそろこれまでの勝ちパターンは通用しなくなってきているのではないか? という指摘が繰り返されている。

 7月下旬、加入者増のペースが鈍化したこと、ゲーム事業への参入を明らかにしたことが報じられ、そうした懸念が再び高まっている。本業である映像配信事業が伸び悩んでいることが、彼らを本業ではない、言い換えればリスクが高い別ジャンルの事業へと駆り立てているのではないか、という見方だ。

photo 写真はイメージ(提供:ゲッティイメージズ)

 そもそもネットフリックスは、伸び悩んでいるのだろうか? ゲーム事業への参入もリスクがないとはいえないが、彼らには、デジタルエンターテインメントへの感度が高く、映像作品に強い興味を持つ2億人の有料会員がいる。

 映像作品のキャラクターや世界観を活用し、複数メディアに展開するビジネスは、ここ数年、ハリウッドの映画スタジオなども取り組んでいる。その上、ネットフリックスには、映画会社やテレビ局と違って安定した、しかもゲームとの親和性が高い有料会員がいることは考慮せねばならない。

ネットフリックス成功の源泉

 ネットフリックスが成功した源泉は、安定した会員からの収入だ。彼らはその成功モデルを、時代に合わせてカスタマイズしてきた。映像制作・配信に加え、ゲーム配信でも成功すると考えるのは、彼らが成長してきたパターンを踏襲しているからに他ならない。

 同社は当初、郵送ベースのDVDレンタルをWebから手軽に行えるサービスで成功。米国にあった店舗型ビデオレンタルチェーン最大手ブロックバスターからシェアを奪って急成長した。社名に「ネット」というキーワードはあるが、現在のようにネットで映像を配信するサービスではなかった。

 そんなネットフリックスがさらなる成長のチャンスをつかんだのは、映像作品をネット配信する事業へといち早く投資したからだ。国土の広い米国では店舗型より、Web予約で郵送するサービスが便利だったが、即時性は低い。会員の「今すぐに観たい」ニーズに応えるため、プラス料金がかかるオプションサービスとして配信事業を始めた。

 2007年からは料金固定型の映像配信事業をメインの事業に据えた。映像コンテンツを日常的に楽しんでいる、しかもクレジットカード情報を預けている会員を抱えることが、何より彼らの強みだった。

 加入者の月額料金は安定している。多少、景気動向の影響を受けたり、ライバルとの競争にさらされたりしても、いきなり会員が数割減るといったことは考えにくい。言い換えれば、予算編成を行いやすい。

 そんな固定化された収入を基に、ネットフリックスは顧客満足度を高め、より多くの会員を集めることに注力してきた。安定した会費収入を配信するコンテンツの調達に使うことでカタログの質を高め、その結果として加入者が増加し、さらに独自コンテンツへの投資余力が高まるという、プラスのスパイラルを繰り返した。

金の卵を生み出し始めたオリジナル作品

 12年になると、オリジナル作品への積極的な投資を始めた。

 映像作品の製作事業は本質的にギャンブル性が高い。劇場で鳴かず飛ばずともなれば、大きな投資を行った話題作はお荷物となる。DVDが普及してからは、放送も含めて投資回収の機会は増えたものの、DVDが大きな収益をもたらしたことで、かえって超大作への投資がエスカレートし、ギャンブル性が高くなった時期もあった。一時、人気作の続編やリメークが大量に生まれたのも製作投資が回収できなくなるリスクを下げるためだ。

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