さて、ここからは企業内研修を生業としている私が、教育コンテンツ開発で日ごろ感じていることを書き添えます。なぜなら教育もひとつのコミュニケーション活動であり、「伝える/伝わる」は「教える/教わる」に通じているからです。
私は研修や講演という場で情報の送り手側に立つことが多い。扱っているテーマが「仕事観醸成・キャリア意識醸成・働くことの哲学」なので、発信する内容はいやおうなしに抽象的・概念的・内省的になります。逆に受講する側は、自らの咀嚼、解釈、創意が問われます。
知識・スキル習得系研修と異なり、マインド醸成系研修はそのように送り手の「第1の創造」と受け手の「第2の創造」が両方うまくかみ合ってはじめて成功するものであり、その意味で難度が高くなります。
そこで顧客企業の担当者からは、「できるだけ具体的にわかりやすくお願いします」とよく言われます。確かに、話す内容を実務のハウツーや実例紹介にすれば、わかりやすくなり即効性もあります。その結果、事後アンケートの満足度評価も高得点が出やすくなるでしょう。しかし、そのような話によって、受講者側の「受信・読解」という「第2の創造」力を育むことはできません。ましてや、研修本来の目的である観・マインドの醸成は全くかないません。
講師や研修の担当者は、事後アンケートで高い得点をほしいという誘惑にかられます。講師は研修のリピート注文がほしいですし、担当者は社内に対して実績アピールになりますから。しかし往々にしてそれは悪い圧力となって、受講者に迎合していく流れを生みます。その結果、即席の答え、マニュアル的成功法、部品的な知識で満たされた研修やセミナーが人気を得ます。
このことは社会全体にも言えることです。テレビ番組の視聴率ほしさ、ネット記事のPV(ページビュー数)ほしさ、本・雑誌の売上げ部数ほしさによって、どんどん送り出されるコンテンツが受け手側に「受信・読解」の負荷をかけないものに傾いていく流れです。
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