山口FG「CEO電撃解任」で見えた 地銀改革を阻む金融行政の「置き忘れ荷物」勃発「山口の変」(2/4 ページ)

» 2021年08月27日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

 吉村氏は16年に山口FGのトップに就任。ちょうど日銀のマイナス金利政策がスタートし、経営環境が激変した地銀に対して、金融庁が積極的な改革を求め始めた時期でもあります。吉村氏は、山口FGの目指す姿として「地域価値向上会社」を掲げ、地域でのコンサルティング事業をはじめ、地元の特産品を全国に販売する「地域商社やまぐち」、地元企業向けに人材紹介・あっせんをする「YMキャリア」など金融以外の領域でグループ企業を次々立ち上げ、積極的な多角化戦略を展開します。

 中でも農業法人「バンカーズファーム」は、近年衰退気味な地元名産のワサビ生産を後押しする新農業ビジネスとして立ち上げ、地元の評価はもとより地銀による「本気の地域創生事業への取り組み」として全国的に注目を集めていました。地方銀行が金融以外のビジネスで地域に貢献しつつ変貌を遂げていくことは、銀行業務の法的規制緩和を後押しする金融庁が望むところであるのは間違いなく、取り組みの方向感は正しいといえます。

 ここで念のためにお断りしておきますが、拙文は吉村氏の肩を持つものでは全くありません。しかし、このような背景を踏まえて考えると、一部で「社外取締役のガバナンスが機能した」と評されている今回のトップ解任は、果たして正しいタイミングでの判断といえるのでしょうか。

 先述した通り、内部告発にあるスキャンダル部分はその真偽も定かではありません。別問題として考えた場合(実際、同社による解任決議理由にも、スキャンダル部分は触れられていません)、吉村氏の新規事業取り組みへの不信任は確実に新銀行設立計画にあったわけで、解任前にもう少し入念に基本戦略に立ち返った議論をする必要があったように思えます。

新銀行設立にも正当性はある

 本業外の新規事業が確固たる形をもって収益が上がるようになるには、それ相当の時間がかかります。アイフルとの業務提携をベースにした個人向け新銀行設立は、この点を踏まえているはずでしょう。つまり、新銀行計画は、本業外新規事業が育つまでの収益かさ上げを狙ったものと考えられ、事業検討そのものの正当性はあると受け止められます。付け加えれば、今年3月の日経新聞調査において、山口銀行は収益力で堂々地銀トップに位置するなど、吉村体制下の山口FGは本業で高い評価を得ており、数々の新規事業で収益の垂れ流しをしていたわけでもありません。

 「投資金額が大きい」という批判に関しても、外資系コンサルティング会社がプロジェクト運営に月額数百万円のフィーを取るのは常識的水準であり、設立後の新銀行が取り扱うローン事業で十分回収が可能な投資計画であったのではないかと考えます。もちろん吉村氏と、日銀出身であるコンサルティング会社トップとの癒着が本当にあったとすればそれは大問題ですが(この点は調査委員会の報告を待つ必要があります)、事業の正当性判断は別の観点でされるべきです。仮に計画が独断専行であっても、現時点で自社に損失を与えたという事実認定ができるものではなく、解任の正当性そのものに疑問符が付く気がしています。

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