では、なぜ適正な価格がつけられないのだろうか。日本の大企業は経営層の流動性が低く、スタートアップ企業でもシリアルアントレプレナー(連続起業家)が少ないという特徴がある。企業のCEOやCFOなどの経営陣にとってIPOは初めての経験となるケースが多く、証券会社や資本市場と折衝していかなければならない中で、企業側が経験不足というケースも多い。さらに、場合によってはIPOのプライシングを企業の経営陣に代わってリードすることも期待されるVC(ベンチャーキャピタル)などの既存株主にも、IPOに慣れているプロフェッショナル人材は多くない。
一方で証券会社側からすると、IPO時の公募価格に対して初値が大きく上昇すれば、公募価格で買う投資家に対するサービスになるという側面もある。手数料を多く払ってくれている機関投資家や個人投資家に対して、IPOで優先的に申し込みを割り振ることで利益を得てもらい、高い手数料収入が得られるメリットがあり、構造的に企業側との思惑が反する可能性がある。
日本では、公募時の時価総額と、株式市場で初めにつく初値の乖離率の平均値は、長期的に50%近い水準になっている。しかし、日本以外の先進国、G7各国では10〜20%にとどまっており、日本では特に高い割合となっていることが分かる。近年、日本における乖離率はさらに上がっており、19年は75%、20年は130%にまでいたっている。日本には小型IPOが多いので値動きが荒いという見方もあるが、例えば時価総額が500億円以上と比較的大型のIPO企業に絞っても、乖離率は他国に比べて著しく高い。初値が適正価格ではないという疑問が生じても不思議ではない。
筆者自身は証券会社、上場企業のCFO、そして投資家というさまざまな立場を経験してきたが、その経験を踏まえて客観的に捉えてみても、事業会社がIPOを通じて得るリターンの少なさはやや不自然だと感じざるを得ない。長年人生を賭して経営に身をささげ、ようやくIPOを迎えた企業や経営者に対して、低すぎる値付けがされているのではないだろうか。
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