なぜIPO価格は安すぎるのか? スタートアップ経営者へのアドバイス(3/4 ページ)

» 2021年09月02日 18時00分 公開
[寺田修輔ITmedia]

「IPOディスカウント」の仕組み

 公募価格の決定プロセスには半自動的にディスカウントがかかる仕組み、つまり「IPOディスカウント」が存在する。IPOの価格は、上場類似企業の株価倍率などを参考とする計算式を元に求められる理論値に対して、主幹事証券会社が機関投資家の意見も聞き入れながら、高いか低いかを判断して決まっていく。その際に使用される公募価格の計算式に、慣習的に20%のディスカウントが組み込まれているのだ。

 企業の時価総額が理論値から20%ディスカウントされる理由には、企業と投資家の間に存在する情報の非対称性がある。新規上場企業からは、既存の上場企業よりも情報が得にくく、より投資のリスクが高いとされているため、それをカバーするために20%ディスカウントされるという考え方だ。例えば継続監査の年数が少ないとか、会社の事業内容が不透明だとして信頼性が低いとみなされるのだ。さらにもう1つの理由は、投資家がIPOにエントリーしやすくするために、割安で株式を売る必要があるというものだ。

 これらの理由は一見もっともらしく感じられるが、実際には論理的に反証可能である。まず、数値や情報の正確性という点については、上場審査において証券会社や証券取引所による長きにわたる審査が義務づけられており、新規上場企業は継続上場企業以上に厳しい外部の目から、公開情報などの正確性を監査されている。また、ビジネスモデルが分かりにくければ、事前に投資家との接点を設けて説明する機会を増やせば解決するため、正当な理由にはならないだろう。さらに、投資家にとってエントリーしやすくなるという理由については、そもそも公募価格よりも著しく高い初値がついている現状を踏まえると、20%のディスカウントがなくても投資家からすれば買いやすいことは明らかだ。

 そもそも、20%という数字には明確な根拠はなく、慣習的にそうなった結果である。企業の経営陣やIPO前からの既存株主にしてみれば、「慣習だから」とまかり通っていることに、課題感や違和感を抱かざるを得ないだろう。

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