ノーベル文学賞に毎回有力候補として名前が挙がる村上春樹氏と同じように、日経平均にも長年組入が待望されている“有力候補”がいる。
その中でも、今回日経平均にようやく組み入れられることとなった「任天堂」は、毎年の銘柄入れ替えのタイミングで有力候補として名を挙げられてはその座を逃し続けてきた。
今回は任天堂の他にも、日本を代表する電子部品メーカーの村田製作所と、上場企業の平均年収ランキングでも度々話題に挙がる計測機器大手のキーエンスといった二番手、三番手の有力候補も連続して日経平均入りすることとなった。
任天堂・村田製作所・キーエンスの三者が有力候補でありながら、これまで日経平均入りできなかった背景を理解する上では、これらの銘柄における「ある共通点」と日経平均の特徴を理解しておくべきだ。
今回、日経平均株価指数へ新たに追加された任天堂・キーエンス・村田製作所の3企業は、いずれも1株当たりの値段が高額な「値がさ株」とよばれるカテゴリに属する銘柄であった。
任天堂の株価は足元で1株=5万4000円程度で推移しており、キーエンスは7万2000円、村田製作所は1万円で推移している。現状の日経平均で最も指数に大きな影響を与えているのがユニクロやGUを展開するファーストリテイリングで、その株価は1株=7万5000円程度だ。
そして、日経平均はファーストリテイリングのような値がさ株の売買動向が全体の指数の方向性自体を度々左右することがある。そのため、値がさ株に買いが入り、日経平均株価指数が大きく値上がりしても、それ以外の銘柄は横ばいか、むしろ下落していることすらある。この現象から、日経平均株価指数は個人投資家から「ファストリ指数」(ファストリはファーストリテイリングの略)などと揶揄(やゆ)されることもあるのだ。
日経平均株価指数やダウ30種平均指数のように、「株価平均型」の指数は、時価総額が小さくても株価が高ければ指数に高い影響を与えられることから、値がさ株の動向に依存しやすい。そのため上記のような個人投資家だけでなく、プロも本音では日経平均株価を日本を象徴する株価指数と見なくなりつつある節もある。
その最も象徴的な事例が、日本銀行が買い入れ対象とするETFを、今年3月から日経平均連動型ETFではなくTOPIX連動型ETFに一本化したことだ(3月26日の記事参照)。TOPIXは、近年の米国株ブームでもしきりに話題に上がるS&P500と同じ「時価総額加重平均型」の株価指数だ。一般に時価総額加重平均型の指数は、株価平均型の指数と比べて歴史こそ浅いものの、各構成銘柄の時価総額に応じてウェイトが調整されるため、より正確に景気の全体動向を測る指標として有効であるとされている点で、近年主流になりつつある。
その動きから考えると、今回の値がさ3銘柄の組入は「株価平均型」のゆがみを増幅させる恐れのある変更とも思え、近年のマーケットの潮流からむしろ逆流する形だ。
日経平均が現状足踏みしていることから、「値がさ株を投入することで日経平均を釣り上げる狙いがあるのではないか」という陰謀論めいた推測も一部では流れているが、今回の値がさ株採用が直接日経平均を釣り上げる可能性は低い。
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