M&Aの失敗に学べ! 今こそ経営人材の育成に舵を切るタイミング日本企業に必要なことは(5/5 ページ)

» 2021年09月13日 05時00分 公開
[桂木麻也ITmedia]
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最後の問題提起

 M&Aは、成長のための経営手法として日本に定着した。今後の国内市場の縮小を所与として、中小企業をも巻き込んで、海外でのM&Aや合弁・提携の数はますます増えるであろう。しかし、海外の買収先・合弁先・提携先をマネージできる経営人材をどのように育成・輩出していくかについてはその方法が確立されていない。あなたの会社を見たときに、若い時に起業をして経営は一通り勉強しましたよ、という同僚が何人いるだろうか? 経営陣の中に、外部から招聘されたプロ経営者ですという人材はどのくらいいるだろうか? 恐らくほとんどいないであろう。

 最後に、もう一つだけデータを示して問題提起することで、このコラムを締めくくりたい。下の表は、時価総額が1000憶円を超えるスタートアップ企業の数と時価総額の総計を国ごとに集計したものだ。今を時めくGAFAもスタートアップ企業であったが、起業先進国である米国とそれに続く中国が突出しており、それにドイツや英国が続いている。この時点で日本のユニコーン数はわずかに3社。時価総額の大きさと合わせて、非常に寂しい数字である。

 起業数の少なさと、中小零細企業の後継者が見つからない問題は、実はリスク回避という点で同根だ。学生時代に得たビジネスのアイデアを実現するために起業するより、生活の安定を求めて大企業に就職する。自営業の父親が、子どもに家業を継がせることで同じ苦労をさせたくないとして、より大きな企業への就職を勧める。リスク回避という観点では正しい行動かもしれないが、社会全体としては、チャレンジしない・させない風潮が蔓延(まんえん)しているということであり、企業人の総サラリーマン化、すなわち経営人材の育成が阻害されることになるように思われるのだ。

 4000万人の人口減少を所与とし、海外M&Aの加速が必須である中で、経営人材をどのように育成するかは、今後の日本企業の生き残りに関わる根本問題なのである。

著者プロフィール

桂木麻也

 インベストメント・バンカー。メガバンク、外資系証券会社、国内最大手投資銀行等を経て、現在は大手会計会社系アドバイザリーファームに勤務する。ASEANでの7年に及ぶ駐在経験から、クロスボーダーM&A及び、ASEAN財閥の動向について造詣が深い。慶應義塾大学経済学部卒、カリフォルニア大学ハーススクールオブビジネスMBA保有。

 著書に『ASEAN企業地図(第2版)』『図解でわかるM&A入門』(いずれも翔泳社)がある。


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