一方で、ホテルはイメージが重要なビジネスであり、非日常感の演出は大切。ゆえに対ゲストという視座において“原価”というワードは相いれず、「それは裏方の話」ということになる。筆者自身もホテル評論家としてホテルと非日常時間の親和性に一貫して着目してきただけに、これまで“原価”に注目することはなかった。そうした中で、コロナ禍になって間もない頃、ホテルの原価が気になりだした出来事があった。
全国チェーンとして知られる宿泊特化タイプ中心の某ホテルブランドが、“1泊3000円”という激安プランを大々的に打ち出した。そのブランドでは、従前から閑散期にはそれに近い価格設定も見られたものの、繁忙日には極端な高レートになることでも知られていただけに、“あのホテルが3000円!?”と大きな話題になった。
当然、コロナ禍で激減する宿泊需要への対策だろうし、同プランの予約方法は公式サイト経由による会員予約ということで、会員数を増やすという意味合いもあるのだろうとも考えた。さらに気になったのは、客室の原価も考慮しているのでは? ということだ。
3000円は宿泊特化型ホテル1室の原価をあらわす数字かと思料したことが、低価格で推移するホテル料金において原価を気にするようなった発端であった。
ところで、こうした原価は「変動費」といわれる。繁閑に応じて変動する費用という意味だが、ホテル利用者にとって、身近にしてイメージしにくい部分がまたホテルの変動費かと思う。
連泊時にアメニティーやリネン類の交換を不要とした場合、時に“ミネラルウォーターをプレゼントする”といったアナウンスを見かける。“環境問題への取り組み”というアピールの裏には“コストを減らそう”という思惑もあり、ホテルにとって変動費の圧縮は相当重要なテーマだろうことがうかがえる。
しかし削減しすぎると顧客満足度に影響するだろうしそのバランスは難しい。利用者目線のホテル評論家としては、“痒いところに手が届く”といった類いのアメニティーや仕掛けを重視するが、ホテル側に立てば“何をどう削るか”という選択はかなり悩ましいということになる。
いずれにせよ「これだけのコストがかかっている」ということをゲスト側も知ることは、また違った視点でホテルを見られるようになるかもしれない。
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