攻める総務

上場会社にとってESGのGとは何か、目的は達成できているか企業価値の向上を株式評価モデルで考える(1/4 ページ)

» 2021年09月21日 08時00分 公開
[ニッセイ基礎研究所]
ニッセイ基礎研究所

本記事は、ニッセイ基礎研究所「上場会社にとってESGのGとは何か、目的は達成できているか−企業価値の向上を株式評価モデルで考える−」(2021年9月10日掲載、著者:金融研究部 専務取締役 部長 CFA 安孫子 佳弘)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。


要旨

 上場会社にとってのESGのGについては、東証の「コーポレートガバナンス・コード」にその基本が集約されている。このコードを見るとコードの目的は「企業の持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」であることが分かる。コードの大半はその目的を達成するための手段や制約条件である。

 そこで、「企業価値の向上」について、株式評価モデルを使ってどのように評価できるかを確認してみた。すると、一般的な常識と同じく、「企業価値の向上」のためには増収だけでなく、持続的な増益や増配が必要であることが確認できる。また、PBRが「企業価値の向上」の程度を評価するのに便利な指標であり、PBRが1以下の企業は「企業価値の向上」を果たしていないことが分かる。

 しかし、東証一部上場企業のPBRをTOPIXで確認したところ、2021年8月末時点で、PBRが1以下の企業が全体の44%も占めている。PBRの単純平均は2.69とそこそこ高水準である一方、中央値は1.16と低水準であり、極少数の高PBR企業がPBRの単純平均を引き上げていることが分かった。

 もし、PBRが低水準である企業が、コーポレートガバナンスで高評価であった場合、手段や制約条件はクリアしても、肝心な目的は達成していないことになる。上場企業には「企業価値の向上」を達成するためのコーポレートガバナンスへの尽力、そして、「企業価値の向上」に向けた具体的な経営戦略についての投資家への明確な説明を期待したい。

 今やESGは上場会社や機関投資家にとって、さまざまな意思決定をする際に無視できない、重要なファクターであることは言うまでもない。

 その中で上場会社にとってのG(以下、コーポレートガバナンス)については、やるべきことが明確で、その中心には東京証券取引所が公表している「コーポレートガバナンス・コード」がある。東証で上場する企業にとっては当然重視すべきルールであり、コーポレートガバナンスの基本が集約されていると言えよう。

 そこで本稿では、上場企業にとってのガバナンスについて、「コーポレートガバナンス・コード」を踏まえ、コーポレートガバナンスが有効に機能しているか、その目的に照らし、どのように評価すべきかを投資家目線でいろいろと考えてみたいと思う。具体的には、株式評価モデルを使ってみたい。

       1|2|3|4 次のページへ

Copyright © NLI Research Institute. All rights reserved.