丸井は長い社史の中で、過去に3つの革新とともにビジネスモデルを変えてきた。創業〜1973年が「第1の革新」。主要顧客は第二次大戦後のベビーブーム期以降に生まれた世代の夫婦と子ども達が構成する“ニューファミリー”で、家具、電気などの耐久消費財を販売。決済手段は日本初のクレジットカードで店舗スタイルは月賦販売型。
「第2の革新」は73〜2006年で主要顧客は若者、販売商品はファッションとした。赤いカード(ハウスカード)による決済方法を取り、店舗スタイルは百貨店だ。主要顧客を全世代型とした「第3の革新」が06年〜現在。ライフスタイルに関する商品をエポスカード(汎用カード)で決済し、店舗スタイルはテナントとの取引条件をSC型の定期借家契約に転換したことから、不動産型に変遷している。
この3期は、社会経済の大きな流れとともに変えてきたとのことで、それぞれ高度経済成長期/バブル経済/少子高齢化時代にマッチしたビジネスモデルを探求してきた。
そもそもPB商品の本来の意味からすると、その店で圧倒的な販売量を誇る商品がPB対象商品となる。生活者が享受できるメリットは、NBに比べ品質、デザインの遜色ないのに価格が安い点だ。そうすることによってお客の支持が集まり、開発商品が進み品ぞろえが増える。そのためPB自体にもブランド化戦略が必要となる図式だ。
そして粗利ミックスという発想のもと、NB・PB共に展開していくことが通常の商品仕入れも行う小売業の考え方だ。丸井の場合、これまでの消化仕入れによる売上形態から定期借家契約に小売りセグメント自体のビジネスモデルを切り替えたことによって、物販ベースの粗利ミックスではなく、PBビジネス単体による採算を測った結果とも考えられる。
直近の決算を見ても、全売上収益の65%がフィンテックと呼ばれるカード事業が主体。小売セグメントは残り35%となっている。しかも「売らない店舗」を目指し、20年2月にはメルカリとの業務提携契約を締結。リアル店舗「メルカリステーション」の展開を進めている他、同年8月には新宿マルイ本館にシリコンバレー発の体験型店舗「b8ta(ベータ)」をオープンさせるなど改革中である。
先行企業や大型SCが取り組むショールミング業態が成功しているという朗報がなかなか伝わらない中、物販業という衣を脱いだ丸井が向かう次世代型店舗が、果たして多くの生活者から支持を得られることができるのか。興味を持って注視していきたい。
磯部孝(いそべ たかし/ファッションビジネス・コンサルタント)
1967年生まれ。1988年広島会計学院卒業後、ベビー製造卸メーカー、国内アパレル会社にて衣料品の企画、生産、営業の実務を経験。
2003年ココベイ株式会社にて、大手流通チェーンや、ブランド、商社、大手アパレルメーカー向けにコンサルティングを手掛ける。
2009年上海進出を機に上海ココベイの業務と兼任、国内外に業務を広げた。(上海ココベイは現在は閉鎖)
2020年ココベイ株式会社の代表取締役社長に就任。現在は、講談社のWebマガジン『マネー現代』などで特集記事などを執筆。
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