小売業界に、デジタル・トランスフォーメーションの波が訪れている。本連載では、シリコンバレー在住の石角友愛(パロアルトインサイトCEO・AIビジネスデザイナー)が、米国のリテール業界の最前線の紹介を通し、時代の変化を先読みする。
あらゆる業界でEC化が進んでいます。
前回の記事でハイブランドファッションの今後の課題として、ECと店舗の在庫情報を一元化させ、顧客体験をシームレスにすることの必要性を述べました。リテーラーのこうした課題を解決する戦略として、注目されているものの一つが「ユニファイドコマース」です。
ユニファイドコマースとは、顧客や商品について収集したデータを単一のプラットフォームに集約することで、売り上げや顧客体験の向上に利用する戦略のことです。このプラットフォームは、EC、モバイルコマース、カスタマーリレーションシップマネジメントなどのシステムを相互に接続し、企業の経営やマーケティングに重要な示唆を与えます。
本記事では、ユニファイドコマースを利用した米国企業の具体的な成功事例を挙げ、ユニファイドコマースの利点とは結局どういったものなのかを解説します。
まず、ユニファイドコマースを実現するためのECサービス提供者として有名なShopifyを導入した会社の事例を紹介します。
ニューヨークと東京に店舗を持つ自転車ショップのtokyobikeは、コロナ禍で自転車需要が増える中、世界中から入る発注に対して情報の一元化ができていないという課題を抱えていました。
tokyobikeの顧客は、小売店舗で自転車を試乗してから、自転車の仕様およびクレジットカード情報の入力用紙を持ち帰り、自宅で購入を検討するというフローをたどることが一般的でした。この既存フローにおいて、同社は顧客を最終的な購入まで結び付けるのに苦労をしていたといいます。
なぜなら、tokyobikeで売られている単価が800ドルもするような自転車は、ほとんどの人にとって店舗で衝動買いできるような商品ではありません。さらに店舗と顧客の自宅との距離が離れていることから、多くの顧客にとっては購入に至るまでのハードルが高かったためです。
そこで、tokyobikeはShopifyでオンラインストアを立ち上げ、店舗上のPOSシステムもShopify POSに切り替えました。これにより、1つのバックエンドを使用して全ての店舗を管理しながら、顧客に柔軟なオムニチャネルでの購入選択肢を提供できるようになったといいます。
また、オンラインストアと小売店舗の情報が効果的に同期されるようになり、例えば、顧客が自転車の試乗のために来店して、店舗では購入せずに帰ったとしても、来店客のオンラインアカウントやショッピングカート情報が自動的にメールで送信され、来店客が帰宅後にメールをチェックすると店舗で選んだ商品がオンラインショッピングカートにきちんと入っている状態になるのです。
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