「今日の仕事は、楽しみですか」が炎上 なぜこの広告が世に出たのか“いま”が分かるビジネス塾(3/4 ページ)

» 2021年10月12日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

テスラは広告宣伝費をかけていない

 意識が高いこと自体は悪いことではないし、企業の社風はそれぞれなので他人が口を挟むことではない。だが、不特定多数の投資家から資金を募る上場企業ということになると少し話は変わってくる。

 同社は今回の広告について「ブランドメッセージ」だったと説明している。広告がブランディングのツールの一つであることは事実であり、広告とブランディングは相互に関係している。だが本質的に両者は別々の概念といってよい。

 広告宣伝というのは、商品や企業について一方的に顧客に訴えかけるものであり、そうであればこそ、お金をかけて媒体などにメッセージや情報を配信する意味がある。つまり広告宣伝は、あくまでも主体は企業側にあるのだが、ブランディングは、その逆のメカニズムで構築される。その製品や企業にブランド性があるのかを判断するのは顧客であって、当該企業ではない。

EV大手のテスラはブランドイメージを大切にしている(提供:ゲッティイメージズ)

 EV(電気自動車)大手のテスラはその典型だが、同社はいわゆる広告宣伝費をほとんどかけていない。だが同社に対しては顧客や社会が、勝手に高いブランドイメージを作り上げている。もちろん、自然とこうしたブランドイメージができ上がるよう、各種のコストをかける必要があるという意味では同じだが、一方的に宣伝しただけではブランドは形成されないのだ。

 日本企業の中には、広告宣伝とブランディングを混同するところが多く、ブランディングのつもりがただの広告宣伝になっているケースは枚挙にいとまがない。

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