ASEANでモテモテだった日本の企業 その将来に漂う暗雲何が起きているのか(2/4 ページ)

» 2021年10月25日 05時00分 公開
[桂木麻也ITmedia]

日本企業がモテる3つの要因

 1つ目は日経企業の製品やサービスの質の高さである。業種を問わず事業の根幹となる製品・サービスの提供は、日本企業が行うというのが基本だ。現地企業は、先述のように顧客基盤、労働者の確保、政府との折衝など、事業のインフラを提供するケースが多い。「安心、安全」とは日本企業の品質の高さを形容する言葉だが、それが世界最高水準であることに異論を挟む人はいないだろう。ASEAN側にしても、クオリティーの低い製品やサービスしか提供できない企業をパートナーに迎えるインセンティブなどない訳で、ここで日本企業がまずアドバンテージを取れるのである。

日本企業がモテる理由とは?(画像はイメージ)

 2つ目の重要なポイントは信用・信頼である。うそをつかない、約束を守るというのはビジネスのみならず人間としての根源的規範だ。しかし、日本人としては当たり前の価値観が、世界では必ずしもそうでないケースが多い。私は通算で12年に及ぶ海外駐在経験をしているが、「依頼された仕事を期日通りに完了させない」「品質が著しく低い製品を平気で納品する」といったようなシチュエーションに少なからず出くわしたことがある。特に後者に関しては、羊頭狗肉ともいえる悪質なケースもあった。私が中学校でこの故事を学んだ時、羊頭狗肉とは恥ずべき行為だと教わったし、その通りであると思う。多くの日本人も同じ思いではないだろうか。だが羊頭狗肉を平気で実践する人間にとって、これは「行ってはいけない」事の例えではなく、「羊頭狗肉は必ずはびこるものだからだまされる方がばかだ」というメッセージなのであろう。自分のパートナーにこのような考えの持ち主を招きたくないのは当然である。

 3つ目は、提携の際における出資のスタンスだ。欧米企業の場合、株主の声が大きく、経営者は彼らに対して短期間でリターンを上げることを要求される。3年で結果を出そうと思えば事業にスピードが要求されるし、経営へのプレッシャーも大きい。多少の無理も事業計画に織り込まねばならない。そのようなスピード感で事業を遂行するには、どうしても経営権の取得、つまり資本業務提携であれ合弁会社であれ、株式の過半数以上を取得することが必要になってくる。ASEANの企業を見た場合、ファミリーで経営している企業がほとんどだ。財閥傘下の企業では上場を果たしているものも相当数あるが、実態はファミリーがコントロールしている。ASEANにおける上場企業の株主統治とは何か、という問題は今回の主題ではないので触れないが、ファミリーで未来永劫事業を運営していきたい現地企業にとって、経営権の放棄を要求してくるパートナーとはそもそも組むことができないのである。

 翻って日本企業の場合はどうか。投資のスタンスは、ゴーイングコンサーンを前提とする超長期である。いったん提携したら、未来永劫、事業を継続しようとする日本側の投資ホライズン(投資家の想定する投資期間の長さ)は、ファミリーで永続的に事業を行いたいASEAN側の意向と合致する。経営権に関しても欧米企業より柔軟で、何が何でも過半数の取得を前提にしない。総合商社のように、マイノリティーの出資を原則とするところもある。

 このように、日本企業の特性は現地企業からして非常に好ましく、よって提携を求める際には相手に困らない、つまりモテモテの状態となるのである。

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