大きな変化がない時代に発生した感染症であれば、感染が終息すれば元の状態に戻るだけかもしれない。だが時代の変化が激しいときに、こうした危機が発生すると、むしろ危機の発生が社会の変化を加速させる作用をもたらすことがある(中世の時代に発生したペストの大流行が、近代化を加速させたことはよく知られている)。
AI化の進展によって、多くの仕事が機械に置き換わると予想されており、10年後には望むと望まざるとにかかわらず、従来型の職場環境は消滅している可能性が高い。100%明確ではないにせよ、多くの人が「大きな変化が到来している」と感じているからこそ、経済的には苦しい状況であるにもかかわらず、仕事に戻らなかったり、わざわざ退職しているのではないだろうか。
日本でも緊急事態宣言の解除によって、従来と同じ定時出社が求められるようになり、一部の人は憂鬱(ゆううつ)になっているとも言われる。この変化が本物だった場合、社員に対して、一方的に従来と同じ働き方を求める企業は、敬遠されるようになるだろう。
パナソニックやホンダなど著名企業の早期退職が相次いでおり、コロナ終息後はその動きがさらに加速するとみられている。退職した人の中には、条件など関係なく再就職する人もいるだろうが、一時金など条件が良かった場合、人生の後半戦は賃金よりも職場環境を重視したいと考える可能性も十分にある。
雇用の流動性が高い社会は、企業にとっては解雇しやすくなることを意味するが、同時に、良い人材を採用できなければ競争力を失うという意味で厳しい社会でもある。コロナ後の社会においては、ビジネスパーソンだけでなく企業側も意識改革が必要である。
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に「貧乏国ニッポン」(幻冬舎新書)、「億万長者への道は経済学に書いてある」(クロスメディア・パブリッシング)、「感じる経済学」(SBクリエイティブ)、「ポスト新産業革命」(CCCメディアハウス)などがある。
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