同じ電機業界でもソニーとパナソニックには、全く異なる観点で10年間の優劣がハッキリと現れています。
リーマン直後、ソニーは09年3月決算で2000億円を超える過去最大の赤字を計上し、さらに回復途上の12年には円高による海外向け事業の大不振が追い打ちをかけて赤字は4500億円にものぼりました。米国人経営者ハワード・ストリンガーCEOは実質更迭され、外資への売却さえもささやかれるほどの危機に立たされたのです。しかしその後のソニーは見事に復活し、コロナ禍の今まさに絶好調にまで至っています。
ソニーを救ったのは、「祖業」のエレキ事業の復権ではなく、ゲーム事業であり、エンタメ事業であり、金融事業でした。特にゲーム事業やエンタメ事業における売り切りスタイルビジネスから課金スタイルへのビジネスモデル変換は、業績の底上げに大きく寄与しました。
同社はもともと昭和企業でありながら、先進的な風土で事業の枠にとらわれない企業文化が発展を支えてきたはずが、いつしか無益な価格競争の渦に巻き込まれて一介の昭和企業に成り下がってしまっていました。そんな中で外部人材の米国人経営者から生え抜きの日本人の手に戻ったことでソニーイズムへの回帰が見事に実現した、そんな印象が色濃く漂っています。
パナソニックも同じくリーマン直後に4000億円弱の赤字を計上し、12年には日立に次ぐ規模の7700億円という巨額赤字を計上。この時点までは僚友ソニーとほぼ同じ道筋を歩んでいました。しかし、ソニーがそこから事業多角化、ビジネスモデル転換により大復活を遂げたのに対して、パナソニックは基本的に祖業を軸にした発展的事業戦略に力を注ぐも、プラズマディスプレイの大失敗、創業者の肝いりだった住宅関連事業の結果的なトヨタへの押し付け、筆頭有望事業だった車載電池事業であるテスラからの切り捨て――こうした失敗に次ぐ失敗を重ね、今もマイナス連鎖から抜けられずにもがいているという印象です。
ソニーが創業家に縛られない自由なソニーイズムをベースに新たな発展モデルへ脱皮したのに対し、パナソニックは創業家を脇に据えながら長年経営を続けてきたが故に、昭和の「松下幸之助神話」に引きずられざるを得ないというある種「昭和の呪縛」があるのではないでしょうか。
そしてそれが、昭和企業文化からの脱皮の足かせとなっているように思えるのです。象徴的な動きが、幸之助氏の遺産ともいえる事業部制のここ10余年における「廃止→復活→カンパニー制→ホールディングス化」の迷走です。特に直近のホールディングス化は、ソニーがソニーグループとしてホールディングス化したことの形式的な後追い戦略にも見え、今のところ必然性を感じさせないこの展開には虚無感を禁じ得ません。
今春、7800億円の巨額を投じ社運をかけた米国サプライチェーンソフト企業であるブルーヨンダーの買収も、遅ればせながら課金制ビジネスへの進出を狙ったものであり、この点もまたソニーに倣った後追いビジネス感が強く漂っています。他社ヒット製品の後追いと特約店の営業力で市場を席巻した昭和の「マネシタ電機」文化が、屋台骨を支える基本戦略構築にもいまだに色濃く残っているのではないかと感じさせられる次第です。
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