この春大きな話題を呼んだ経済界の出来事に、東芝を巡る一騒動があります。1月に念願の東証一部復帰を果たした矢先、同社に対して海外投資ファンドであるCVCキャピタル・パートナーズ(以下CVC)から、上場廃止を前提とした買収提案があったというものです。
日経新聞がスクープした段階で、「何だこの話は!」と違和感アリアリだったわけですが、程なく車谷暢昭社長(当時)が辞任会見に同席しない「実質解任」といえる事態に至り、社長自らの保身が起こした“自作自演”であったことが確実になりました。しかしこの件が東芝に残したダメージは大きく、外部から招聘(しょうへい)された「プロ経営者」のミッションという観点から大いに考えさせられる一件でもありました。
車谷氏は旧三井銀行出身で、三井住友銀行発足に奔走したエリートバンカーです。合併後は副頭取に就任するも頭取レースに敗れ、自らグループを離れます。その移籍先のポジションが、今般東芝に提案を持ちかけたCVCの日本法人会長職だったのです。すなわち、東芝への提案は車谷氏の古巣からの提案というわけで、いやが上にも氏が仕掛けた奇策に違いないということになってしまい、結局自ら墓穴を掘る形になったわけなのです。
車谷氏はなぜ古巣のCVCを動かしてまで無謀な提案をさせたのかといえば、それは車谷氏とアクティビスト(物言う株主)たちとの対立回避に他なりません。2017年の巨額損失の処理の際に6000億円の増資を引き受けて株主になったアクティビストたちが望むのは、あくまで株価上昇によるキャピタルゲインです。
車谷氏は社長として、事業売却、大規模リストラの断行などを指導することで実質無借金経営を実現。20年3月期には営業利益で前期の約4倍となる1305億円を計上し、21年1月に、念願であった3年半ぶりの東証一部復帰を果たしているのです。しかし、株価は一連の不祥事発覚前の水準に比べ1000円以上低い状況に甘んじ、アクティビストたちは不満を募らせます。20年の株主総会では、大幅増益の決算後にもかかわらず、車谷氏再任に対する株主の賛成票は信任ギリギリの57%にとどまるという事態を招いているのです。
アクティビストが不満とする、株価が上がらない最大の理由は、車谷氏指導の下では実現可能な成長戦略が見えてこない、ということに尽きるでしょう。それは当たり前といえば当たり前のことではあります。
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